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私訳・源氏物語

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June 1, 2012
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カテゴリ:源氏物語つれづれ

ブログを読んでくれている友人がいる。

たまに「今日の文章の上から二行目、おかしくない?」と
突っ込みが入ることもあるのだが、先日は彼女から「蓬生って、好きかもしんない」と、
嬉しいメールがあった。

そういえば最近、「源氏物語って、おもしろいんですねー」と言ってくれる男性が2人
(しかも1人はまだ若い)いて、嬉しかったり驚いたりしている。

著者はもちろん紫式部なのだが、
「源氏物語」の面白さが伝わるようにと訳している私には嬉しい言葉だった。

「蓬生」の巻は、没落した皇族のお姫様のいともあわれな暮らしぶりを、
諧謔というメガネを通して描いているせいか重さがなく面白く読めるし、
訳していても楽しい。

この巻で私が特に興味深く読んだのは、末摘花への源氏の歌だ。

「尋ねても 我こそ問はめ道もなく 深き蓬の もとの心を

(道もないほど深く繁った蓬のもとを、私こそが探し訪ねてみよう。
昔と変わらぬ心を持ち続けている人を)」

ここで「我こそ」と詠んでいるところに、「私ももの好きだな」といった軽い自嘲の思いも
感じるのだが、根底には暖かい気持ちが流れているように思える。

「藤波の うち過ぎかたく見えつるは まつこそ宿の しるしなりけれ

(松の木にかかって咲いている藤の花を見過ごし難く思ったのは、
ひたすら私を待つあなたさまの家の目じるしであったからなのですね)」

この歌のうつくしさと暖かさに、私はちょっと感動してしまった。

これに対して末摘花は、今までになくすぐ返歌する。

源氏は、内気で恥ずかしがり屋の末摘花も「昔よりは、ねびまさり給へるにや」
(しばらくみないうちに大人になったものだな)と思う。
このあたりのやりとりに、お互いの気持の暖かさを感じる。

もちろん源氏はこんなボロ屋に長居は無用で、宮とはいえ人並み以下の容貌の姫に
逢いに来たことを人に見られたくなくて、早く出ていきたい気持ちではあるのだが。

それからもう一つ、侍従へのはなむけとして、
抜け落ちた髪の毛を集めて作った鬘を贈るところも興味深い。

形見に添へ給ふべき身馴れ衣もしほなれたれば、年経ぬるしるし見せ給ふべきものなくて、わが御髪の落ちたりけるを取り集めて鬘にし給へるが、九尺余ばかりにていときよらなるを、をかしげなる箱に入れて、むかしの薫衣香のいとかうばしき一壺具して給ふ。

昔むかし、初めて読んだ時は『気持ち悪い』と思ったものだが、今回訳していて
「いときよらなるを」と書いてあることに、「なるほど」と思った。

大野晋先生は岩波古語辞典の中で、「きよげ」が第二流の美に対していうに、
「きよら」は「第一流の気品ある美、華麗さ、讃美をいう。
源氏物語では多く天皇、皇族のこと・ものについていう」と述べている。

小学館の古語大辞典でも、「きよげ」が清楚美、こぎれいな美をいう」に対して
「きよら」は「本来的に完璧な美しさを持つもののその美しさが、ある条件が満たされ、
輝きやつややかさを見せて外部に匂い出るさまをいう」と、
やや抽象的な表現になっているが、
やはり「皇族関係の人物や一等の調度品に対して用いられる」と記されている。

現代では抜け落ちた長~い髪の毛など、厭わしく不気味な老廃物でしかないのだが、
鬘一つ拵えるにも緻密な手作業と膨大な時間を要したであろうし、
抜け毛といえども物のない時代には決してゴミではなかったのだろう、と思う。

「9尺余」をメートルに換算すると3メートル近い長さになるから、
抜け毛とはいえ立派なものだ。

その上末摘花は皇族だから「いときよら」と表現されているのも頷ける。

しかし紫式部という人は、源氏物語を読む限り
なかなか辛辣なユーモリストのようだったから、
ひょっとするとこの時代でも抜け落ちた髪の毛を餞別に贈るという行為は、
例外中の例外だったのかもしれず、
「いときよら」も皮肉な反語の表現として用いたのかもしれないが、
市井の源氏好きでしかない私には残念ながらそのあたりはよくわからない。






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最終更新日  March 5, 2017 09:54:33 PM
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