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カテゴリ:源氏物語
松風の吹き荒れる音も荒々しいのですが、
宇治の山おろしに比べますとここ二条院はたいそう穏やかで 暮らしやすいお住まいなのです。 でも今宵はとてものんびりしてはいられず、 宇治で聞いた椎の葉の音にさえ劣っているように思えます。 「山里の 松の蔭にもかくばかり 身に染む秋の 風はなかりき (宇治の山里の寂しい松蔭のすまいにも、 こんなに身に沁みる秋の風は吹いてこなかったわ)」 来し方の辛い思いを、中君は忘れてしまったのでしょうか。老女房などは、 「もう奥へお入りなさいませ。月を眺めるのは不吉なことでございますよ。 ちょっとした果物さえ召し上がろうとなさらないから、困ってしまいますわ」 「ほんにお体に悪うございますよ。 大君さまは何も召し上がらないでおなくなりあそばしたのですから、 どうか少しでもお召し上がりくださいませ」 と口々にお進め申し上げます。 若い女房たちは『嫌な世の中だわ』というふうにため息をついて、 「ああ、これからどうなることやら」 「六の姫さまとご結婚なさっても、 よもや中君さまをお見捨てにはなさいますまい」 「もともと深いご情愛で結ばれた間柄というものは、 すっかり切れてしまうことはないと申しますからね」 などと言い合っています。 中君にはそれがとても聞きづらく、 『こんな事情の時にあれこれ言わないでほしいわ。 ただ宮さまのなさりようを見守るしかできないのですもの』 と思っています。 『私が宮さまをお恨み申しても、他人には非難されたくない』 とお思いだからなのでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
April 24, 2023 07:06:53 PM
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