848584 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

私訳・源氏物語

私訳・源氏物語

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

プロフィール

佐久耶此花4989

佐久耶此花4989

日記/記事の投稿

カレンダー

バックナンバー

June , 2024
May , 2024
April , 2024
March , 2024
February , 2024
January , 2024
December , 2023
November , 2023
October , 2023
September , 2023

カテゴリ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

September 6, 2021
XML
カテゴリ:源氏物語
空が暗くなるほど雪が降る日、
中納言はひねもすその空をぼんやり眺め暮らしていらっしゃいます。

夜になって、世間の人は風情がなくて殺風景だという師走の月が、
雲のない空にぽっかり出ましたのを簾を巻き上げてご覧になりますと、
阿闍梨の寺の鐘の音が聞こえてきます。

「今日も暮れてしまったか。

おくれじと 空ゆく月を慕ふかな 遂にすむべき この世ならねば

(亡きおん方に遅れまいと空をゆく月を慕わずにはいられません。
いつまでもこの世に住むことなどできないのですから)」

風が激しく吹きますので蔀をおろさせ給う時に、
雪を頂いた四方の山々が月の光に鏡のような汀の氷に映って
たいそう風情があるのです。

『今建てている京の邸を磨き上げたとしても、こうまでうつくしくはあるまい。

大君がご存命でいらしたら、この景色をご一緒に堪能したかったが。

恋わびて 死ぬる薬のゆかしきに 雪の山にや 跡をけなまし

(大君恋しさに、死ねる薬があるという雪山に分け入って、
そのまま消えてしまいたいものだ)
半偈を教えたという鬼が現れてくれたら、私の身を投じるのだが」

とお思いになるのも、恋の乱れによる不純な求道心というものでございましょう。

女房たちをお側近くにお呼び寄せになって世間話などなさいますのも、
たいそうゆったりと奥ゆかしく、特に若い女房などはほれぼれとお眺め申して
『ご立派なお方でいらっしゃる』とうっとりしています。

年老いた女房たちはひたすら大君のご逝去を口惜しく悲しく思っています。

「大君のご病気が重くおなりだったのも、
宮さまが思いのほか薄情でいらしたことが原因でしたものね」

「ご本心は素振りにもお出しにならずお一人で思いつめていらして、
ちょっとした御くだ物さえお上がりにならず、ひたすら衰弱なさったのですわ」

「うわべでは何も心配事などないように振る舞っていらしたけれど、
お心内ではどんなに悩んでいらしたことでしょう」

「そこまで悩まなくてもよろしいのに、
亡き父宮さまの御遺言に背いてしまったことと、
ご自分のせいで中君のお身の上まで変えてしまったことを煩悶なさるうちに
ご病気になってしまわれたのですわ」

など、中納言に申し上げて、折々に仰せになったことなどを互いに語りながら、
いつまでも泣き惑うのでした。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  September 6, 2021 08:12:13 PM
[源氏物語] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.