お歌に「花の」とあるように、
華やかでご立派なお衣装をお贈りになりました。
また、お引越しの際の人々への贈り物なども、
身分に応じて不都合のないようにご配慮なさるのでした。
「その時に応じた細やかなお心づかいが、世にも珍しいほどでございますわ」
「兄弟であってもこうまで親切ではございませんもの」
など、女房たちは中君に申し上げます。
地味な老女房たちにとって、こうした生活面でのお気遣いが、
しみじみとありがたく感じるのでした。若い女房たちは、
「今までは中納言殿を時々拝見できましたけれど、
宮さまのお邸にお移りなされましたら、
きっと境遇もお変わりになるのでしょうね」
「どんなに恋しくお思いになることでしょう」
と言い合っていました。
中納言は中君がお渡りになる前の日の早朝に山荘にお越しになりました。
いつものように客間においでになるにつけても、
『もしもご存命であれば今頃は私に馴染んでくださって、
宮より先に大君を京にお移ししていたものを』
など、生前のご様子やお話しになられた事などをお思い出しになりながら、
『私に心を許していらっしゃらなかったが、
決して嫌っておいでではなかったし、
私に恥をかかせるようなこともなさらなかった。
それなのにこうなってしまったのは、私の優柔不断な性格のせいなのだな』
とお思いになりますとお胸が痛くなるのでした。
姫たちを垣間見た障子の穴をつい覗いてごらんになるのですが
簾が下りていて中が見えません。
お部屋の中でも女房たちが大君の思い出を話しながら互いに泣き合うのでした。
中君はまして涙の川に明日のお渡りさえお考えになれず、
ぼんやりとお庭を眺めて臥していらっしゃるのでした。すると中納言が、
「長い月日の積もる話もございますが、
それを話さなければ胸が塞がるような気がいたします。
その片端でもあなたさまに申し上げて、私の気持ちを慰めたいと存じますが、
いつものようによそよそしくなさらないでください。
姉君が亡くなられた今は、この山荘も別世界のような心地がいたします」
と申し上げますと、
「あなたさまに素っ気ない対応と思われたくはないのでございますが、
今の気持ちではとても普段のように対面できるとは思えませんし、
取り乱しておりますからいつも以上に失礼があるのではと
気がかりでございまして」
と、困っていらっしゃいます。
それでも女房たちがあれこれと催促申し上げますので、
間の襖の入り口で対面なさいます。