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私訳・源氏物語

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May 7, 2022
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カテゴリ:源氏物語
「秋の空は常より物思いが勝るような心地がいたします。

そのつれづれの慰めにしようと存じまして宇治に参りましたけれども、
山荘の庭も籬もひどく荒れ果てておりまして、耐えがたい寂しさを感じました。

かつて六条院がお亡くなりなされるニ三年前に、出家なされて棲んでいらした
嵯峨の院や六条院に参りましても同じでございまして、
木や草の色につけても水の流れにつけても悲しみを慰めることができず、
涙にくれたまま邸に帰ったものでございます。

六条院にお仕えしていた人々は身分の上下を問わず、
皆が深く嘆き悲しんでおりました。

六条院に住んでいらしたご婦人方もみな退出なさって散り散りになりまして、
それぞれ俗世を離れた出家の生活にお入りになりました。

はかない身分の女房などは落ち着く先もなく、分別を失って山や林に籠り、
あるいは何のあてもないまま田舎者になるなど、
哀れに散らばっていく者が多くいたものでした。

そうして六条院が荒れ果て、忘れ草が生い茂るようになりました後に、
左の大臣が移り住みまして、明石中宮腹の姫宮たちもおいでになり、
六条院も昔にかえったように賑やかになったのでございます。

この世に類ない悲しさと私が思いましたほどの事も、
年月が経ちますとその悲嘆を思い諦める折がやってくるものだ、
悲しみにも限度があると、その時に思ったのでございます。

とは申しましても、あのころの私はまだ幼くて、
あまり感じなかったのでございましょう。

大君がお亡くなりになられた悲しみこそ慰む方もないように存ぜられますのは、
世の常なき悲しみとはいえ、罪の深さにおいては勝っているのではなかろうかと、
ひどく情けなく思うのでございます」

とて、泣いていらっしゃるご様子は、たいそう愛情深いのでした。

特に大君に縁のなかった人でさえ、中納言が執着なさるご様子を拝見しますと、
何となくもらい泣きしそうですのに、
まして中君はご自分も宮の冷淡なことに不安を感じていらっしゃいますので、
いつもより一層大君が恋しく哀しく思い、お返事もようおできにならず、
涙ばかりが流れるのでした。

こうして中納言も中君も、互いにしみじみと悲しみに浸るのでした。





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最終更新日  May 7, 2022 08:44:58 PM
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