「三百年後の東京」月露行客
三一書房刊『少年小説大系 第18巻 少年SF傑作集』より。明治36年の作で、しかも翻案である。少年SFとあるが、文体的にも内容的にも少年ものとは思えなかった。あらすじは、明治に冷凍睡眠した主人公が二十三世紀の東京で目覚める、というものだが、いかんせん書かれた時代が時代だから科学的描写については『百年後の世界』にも遠く及ばない。社会体制はと言えば三百年もたっているのに極端な資本主義社会で、貧富の差の甚だしいことこの上なく、貧民窟などの描写は十九世紀も欠くやあらむ、と思えるほどである。案の定、社会主義的抵抗運動・組織などが登場して、物語は次第にSFというより政治小説という相貌を帯びる。しかも訳出されているのは前半のみ。別の出版社から明治時代に完訳が出ているそうだが、食指をそそられる内容でもなかった。ただ明治の語彙と文体の標本の一としては貴重かもしれない。【中古】 少年小説大系(第18巻) 少年SF傑作集 /月路行客(著者),會津信吾(編者),横田順彌(編者),尾崎秀樹 【中古】afb