青空と木洩れ日

まだ母が一人暮らしをしていた頃、
実家のリビングの片隅には
いくつもの空の古びた小さ目のバスケットが
まとめて置いてありました。

最初はあまり気に留めなかったのですが
特に何に使っているわけでもなく
空のままにしてはどれも土のような物がついていて
何となく薄汚れています。

どれも安っぽい素材で、色も素材もバラバラで
母があえて買っているとも思えないのですが
気のせいか、実家にいくたびに
数が少しづつ増えているような気がして
いつも、何でこんなものがあるのだろうと不思議でしたが
何か訳があって置いているように感じたので
そのままにしていました。

それから何年か経ち、
母が歳を重ねて、これ以上一人暮らしはさせておけない、
家で一緒に住んでもらおうと
母を迎えに実家に行きました。

いつでも好きなだけ家に帰ってこれるから、と母に言うと、
実家に住むことにこだわっていた母が
すんなり納得して、私の家に来ることになりました。

実家はいつでも来れるように、そのままにしましたが、
長期留守にするために、ざっと片付けをしました。

その時、何か母の思い入れがあるような気がして
今までそのままにしていた、空のバスケットを捨てようと思い、
「何でこんなものを置いているの？
捨てていいでしょう？」と聞きました。

母は「えっ？捨てちゃうの？それは…」と
何か言いたそうだったのですが
上手く説明できないでいます。

見るとバスケットはさらに増えて、10個以上もあるので
こんなもの集めてどうしたんだろう、
母はおかしくなっちゃってるのかなと心配になりました。

「何にも使ってないし、使い用がないでしょう？
どうしてこんな変なもの買うの？」
片付けながらそう言うと、
母は、そのバスケットは私が送ってきたものだと言います。

どれも私には覚えがないものばかりなので、
お母さん、変な事言い始めてるのかなと思いながら
なんだか大事にしているから、全部捨てないでおこうと、
「綺麗で丈夫そうなのをいくつか置いておくからね。
でも、もうこんなの買っちゃだめだよ。
使う物ならいいけど。」と言うと
母はその言葉にとても不満そうで
ぷんぷんしていました。

その6年後位に母が亡くなり、
実家の片付けをしている時に
さらにいくつかのバスケットが部屋の隅から出てきました。

ビニールの中敷きや
薄紙がついているままのものがあったので
その時初めて
これらはギフト花鉢用の
バスケットだったとわかったんです。

ここ20年ほど送り続けた
母の日や敬老の日のお花のギフトのバスケットを
母は全部取って置いたんだと思います。

私はお花の広告を見て注文していたので
お花が入っていたバスケットを直接見たわけでも
覚えているわけでもなかったので
わからなかったんですね。

お花のギフト用のバスケットだから
大量生産された簡易的なもので
水遣りのシミがついたり、土がこぼれたりして
薄汚れた安っぽいバスケットになっていたのですが、
母からすれば、綺麗なお花を贈ってくれたから
お花はだめになってしまっても
せめてバスケットは大事に取って置こうという
気持ちだったのでしょう。

私が、意味わからない、何なのこれ、と
母に対して不満を感じていたことが
ああ、こういう事だったんだと
つじつまが全部合って、
母は私の事を大事に思っていたのだとわかりました。

母が亡くなってからそういうふうに
つじつまが合った事が沢山あります。

もう少し母に寄り添えればよかったな
もう少し母の相談相手になれればよかったな
私が歩み寄らなければいけなかったな
母は全部わかっていて、
只、上手く説明できないだけだったんだな
と後になって理解できた事が沢山あります。

でもあんまり後ろばかり向かずに
前に進む努力をしようと思ってます。


左　レビューの良いアレンジメント
右　1000円台のお手軽ギフト


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