カテゴリ:チャドウリ
「石田、柿食うかー?」
「あ、ありがとう」 浅野君は、誰が見ても僕より浮かれていた。 「旨いだろ、隣のおばちゃんから貰ったんだぜ」 「ああ」 「ム」 「美味しいね」 「こらこら、勝手に手を出さないように!」 文句をつけながら笑っている。 「今日は闇鍋だからね、昼間の内に食べとかなくちゃ」 「そんな後ろ向きでどうする!れつご闇鍋!大丈夫!井上さんは胃薬担当だ!」 「そうだな、たつきより頼りになる奴は俺は知らねえ……!」 黒崎の表情がぱっと明るくなった。 だが、僕より楽しみなわけじゃないだろう、きっと。 僕は中学校まで、殆ど友達付き合いというものをしなかった。 性格的なものもあったし、家庭環境もあったが、なにより僕は「特別な、特殊な人間」という意識が強かった。 そして、他人を巻き添えにしてしまうことが怖かった。 師匠を見殺しにしてしまった僕は、誰かとともにあることが出来なかったのだ。 だから、彼が「お誕生会をやろう」と言ってくれたときは、「高校生にもなって」という言葉も出ないほど嬉しかった。 やっぱり「別にいいよ」と言ってしまったけれど。 大袈裟だけど、人生ががらりと変わってしまうような気すらしていたんだ。 「闇鍋」という、普段なら馬鹿馬鹿しいと思うだろうイベントすら今では楽しみでならない。 ……多分、変わってしまったのは人生でなくて、僕自身なんだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年11月07日 21時13分12秒
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