カテゴリ:遊戯王SS
「王は、負けます」
「はい……?」 城之内は絶句した。 それは、表の遊戯と少し話した後のこと。 どうしても眠れずに船中をふらふらした後、漸く戻った船室に白い人影を見たときは、動揺のあまり「すいません間違えました!」と叫んでしまったが、よく見ればその白い女にはかすかに見覚えがあった。 「えーと、……誰でしたっけ?」 女は彼の登場にも叫びにも全く動じた風ではなかった。ただ、青い眼に非難の気配がある。やっぱ部屋に入られて怒ってるのかな、と思ったとき、言われた科白がこれだった。 「はい……?えっと、何で?」 「力が欠けているからです」 「力?でもアテムには神のカードがあるし、多分ブラックマジシャンも使うだろうし、第一腕がいいから……」 「そういう意味ではありません」 苛立ち混じりの声。 「三千年前、王は斃れ、セト様は生き残りました。……なぜだと思いますか?」 「そりゃ……ゾークを封印するために……」 いいながら、流石の城之内も、この女が問題にしているのはそんなことではないらしいと気づいていた。 王が死に、セトが生き残った。 普通に考えれば、セトのほうが強かったとなるんだろうが、少なくとも自分は認めない。 ……じゃあどうして? なんだが、嫌なほうに話がすすんでいるような……。 「セト様が無事だったのは、守護の力が宿っていたからです」 「守護の力?」 「宵闇に黒き龍を屠り、暁闇に白き龍を奉る。月と日の両輪を以って死を祓え。」 「黒き龍と白き龍?……レッドアイズとブルーアイズ!」 はい、と女は頷いた。 「セト様は白き龍を納めて、絶対の守護を宿しました。ですが、王は黒き龍を納めることができませんでした。……あの方には、それよりなかったのでしょう。しかし邪悪を祓うことが、王にはできなかった」 だから、と女は冷たい声で言った。 「だから、あの方には剣が在っても盾がない。最後には、身を護る術がない」 城之内は呆然となった。この女が何者かは知らないが、話の内容は要するに、「どんなに強くても王は最後には負ける」ということだ。 下手をすると……次の人生でも……。 「な、何とかならねえのか?もう一度、その守護の力を手に入れるチャンスはないのか?」「……」 女は黙り込む。 本当に何者なんだろうか、と思い、何者でもいい、とも思う。 この女の言っていることは正しいのだ。 ……絶対に。 「……ごめんなさい」 「え?」 「どうしようもないの。私にも貴方にも、どうしようもないの。でも……」 「でも?」 「楽しかったでしょう?」 「……」 「王と一緒にいられて、楽しかったでしょう?」 ああ。 楽しかった。 楽しかったよ。 でも、それとこれとは話が別だ! 城之内は猛烈に腹が立ってきた。 「あんた一体何なんだよ!何でオレにそんなこと言いに来たんだよ!いや……遊戯にも言ったってんならぶっ殺すぞ!あいつが……どんな思いで覚悟を決めたか、あんたにわかるのかよ!わかんねえだろ!」 力一杯怒鳴りつけても、女は身じろぎもしなかった。ただ一言。 青い眼を伏せると、ふっと姿を消した。 「な、なんだったんだ……?」 今のは一体なんだったんだろう。古代の亡霊か? 今更ながらに恐怖を感じ、城乃内は自分の船室を飛び出した。 誰も居なくなった船室に、女はただ立ち尽くしている。 彼と言葉を交わしたい、という意思をなくした姿は、既に朧だ。 色も形もなくした唇で、それでも呟いた。 だから、あんなことになったんだわ。 ねえ、セト様? (6月23日 前日記より) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年12月21日 20時24分43秒
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