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カテゴリ:読書
RPGというのは、決まりきった約束事がある。 モンスターを倒せば経験値とお金が得られるし、どれだけ瀕死の重傷を負っていても宿屋に一泊すれば全回復する、などと言ったルールだ。 本作、『なぜ銅の剣しか売らないんですか?』はそういったRPGの約束事に突っ込みながら話をすすめるRPGパロディネタの小説になっている。 ![]() なぜ銅の剣までしか売らないんですか? (実業之日本社文庫) [ エフ ] ところで、RPGの約束事については幼いころは不思議と思ったことはあれど、いつしか何の疑問も持たなずに受け入れるようになった。そんな小学生時代の僕は『魔法陣ぐグルグル』という作品に出合った。 僕の見た限りだと、こういったRPGのルールをパロディ化したのは『魔法陣グルグル』が初めてだったように思う。 現代だと、もうRPGをパロディ化したものはありふれたジャンルになってしまい、なろう系なんかそんな作品であふれているので新鮮な感じはしなくなったけれどもね…。 ![]() 魔法陣グルグル1巻【電子書籍】[ 衛藤ヒロユキ ] さて、本作の簡単なあらすじだ。 主人公の商人・マルは勤務先の武器屋について疑問を持っていた。 「なぜ、自分の村の武器屋は銅の剣までしか売っていないのか? もっと強い鋼の剣だとか、バスターソードを売ればもうかるのに・・・」と。 そして、店主にもっといい武器を売ろうと進言しても、いつも拒絶されるのだ。 作中世界では、武器もアイテムも、どの町でどれを売っていいのかが指定されており、また売値もどこであっても同じ値段になっている。 疑問を持ちながら店主に従っていたマルであるが、ある日、弟が勇者に指名されてしまう。 勇者は死亡率が極めて高い。なのに、弟には銅の剣までしか持たせられないのは理不尽である。安全に勇者の旅をさせるため、最初からもっと強い武器を与えられないのはなぜなのか? マルはこういったルールを作っている商人ギルドに疑問を持ち、なぜこんなルールがあるのか、これを撤廃させるため商人ギルドの本部を目指し旅に出るのだ。 このあたり、RPGあるあるだ。 RPGでは主人公は徐々にレベルアップしていき、武器やアイテムも先に進めば進むほどいいものが手に入るようになる。 ゲームバランスというのがあって、初手から強い武器やアイテムが手に入ったりすると、ゲームとして面白くなくなってしまうからな…。 最終的に、この世界では魔族と人間側で協定ができており、人間側は魔族という外の世界の敵を作ることで為政者に対する不満が向かないようにし、魔族は人間側の領土である程度踏み込めるようにする。そして、人間側の勇者というのは、人間側の不満のガス抜き的な要素があり、つまるところ人間と魔族の対立自体が八百長なのだと明かされるのだ…。 僕の意見としては、この小説は単なるRPGパロディではなく、社会派小説になっているところに見どころがあると思う。 商人ギルド本部を目指す主人公は、①花が投機の対象となっている町、②「まじめに働くなんて馬鹿」など労働者を煽る殴られ屋のいる町、③弱い魔族を奴隷にしている町、④快楽物質を含む植物を他の国に輸出している町、などを通過していく。 これ、すべて元ネタがある。 ①は17世紀オランダであったチューリップ・バブルだし、②は炎上系Youtuber、たぶん「ゆたぼん」あたりだろう。 そして③は現実の奴隷制度と低賃金労働者、④は阿片戦争である。 けっこう、社会派なのだ。 個人的には、RPGパロディよりもむしろ、現実世界であった出来事をファンタジー世界に落とし込んだ社会問題の方が面白いと感じた。ある意味で、RPGパロディのオチ、つまり魔族と人間が裏で手を組んでいるというのはありがちなネタだもんね…。 それぞれの社会問題は色々と見どころもあるのだが、②の炎上系Youtuberの町が現代的なネタをファンタジー世界にうまく落とし込んでいてよかったと感じた。 「まじめに働いているのに俺より稼げないなんで無能」、「まじめに働くなんて馬鹿」などと大衆を煽る子供を「殴られ屋」に設定するあたりの発想は驚かせられた。 また、この「殴られ屋」ビジネスは街角でやっていたのだが、劇場を借りて行うほど規模が大きくなると、今度は劇場に広告を出している商人からのクレームが来て、劇場でのビジネスができなくなってしまうのだ。炎上系Youtuberの末路を見ているようである。 その次あたりに良かったのが奴隷ネタだろうか。 作中では、砂糖を奴隷が作っているが、砂糖精製というのは現実でも重労働で、機械化以前は奴隷なしでは成立しなかったというあたりも考証がしっかりしている。 そして、奴隷解放が善意のみではなく、それによって利益を得るものがバックにいたというあたりも面白い。実際、アメリカの奴隷解放も、奴隷制によって大規模農業をしていた南部を弱体化させるため、さほど奴隷に依存していなかった北部が奴隷解放をすすめた、なんて話も聞いたことがあるからね。 最終的に、奴隷は低賃金労働者へと姿を変えるのだが、利権は奴隷解放運動を扇動した奴隷保護団体的なところがしっかり持って行ってしまう。恐ろしいものよ…。 ただ、炎上系以外のチューリップ・バブルの話、奴隷制度、阿片戦争はどれも世界史の話になってしまい、スケールが大きくなる一方、微妙に話が成立しにくくなってしまうように感じた。 特にチューリップ・バブルの話について、主人公は「キメイラの翼」という「一度行ったことのある町に移動できる魔法のアイテム」、ドラクエでいう「キメラの翼」を使い、希少な「チュリップの花」が珍しくもなんともない外国から花を大量に流入させることで値崩れさせ、カラ売りの方法でひと財産作るのだ。この「キメイラの翼」はない方がよかったかもしれない。 そんな、外国に行けばわりと簡単に手に入る花が高騰する、というのはないわけではないが、ちょっと想定しがたい。 なんというか、「キメラの翼」はRPGをやる上では退屈な移動を省略するために必須なアイテムではあろうが、強力すぎるのだ。作中では「一度に4人くらいしか移動できない」という制限はあったが、それでも強すぎる。 この「キメイラの翼」があれば、海の向こうから連れてこられた奴隷だっていつでも自分の国に帰れてしまうし、流通も僕たちの想像以上に大きく変わるだろう。 たとえば、都心近くのベットタウンというのがなくなったりするだろうし、鉄道やバスなどという公共交通機関も大きく変わりそうだ。 総評として、本作についてはRPGパロディネタよりも社会派な部分の方が面白かった。 世界史や炎上系Youtuberなどで見たネタについて、主人公は機知と機転で商機につなげていく。amazonの感想を見てても、RPGパロディネタよりむしろ、世界史ネタを面白がっている人の方が多いようだね。 ![]() なぜ銅の剣までしか売らないんですか? [ エフ ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.10.25 12:58:05
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