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HANNAのファンタジー気分

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November 3, 2005
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 『火星年代記』『星の帆船』に続いて、気分はもう火星特集。

  …長いあいだ火星は犯罪者の流刑星だった
  …地球人に支配されるのをきらった火星人たちは戦い
  …いまだ ゲリラ戦を続けているという
  …よく名づけたものだ…火星(マース)
  火の星…戦いの星…わざわいの星――と
                  ――『スター・レッド』

 たぶんブラッドベリの遠いエコーもあるのでしょう、黙示録的で切ない火星の物語といえば、もはや古典のこのコミックス。
 ブラッドベリの『火星年代記』が、タイトルの表すように広い視野で淡々と描かれた黙示録とすれば、『スター・レッド』はレッド・星(セイ)と呼ばれる一人の少女の、生きる(=自己を確立する=大人になる)ための悩みや戦いを、熱く描いたものだといえるでしょう。

 セイは十五歳。大人になろうともがき始める年頃です。
 冒頭の彼女は、未来都市の夜を疾走するバイク乗りのリーダーで、並みいる男どもをものともせず、ケンカでも精神的にも無敵の強さを誇っています。この年代の少女だけが持つ、怖いもの知らずの純粋な美しさ。
 そこへ、彼女の秘密(火星人であること)を見抜く、見知らぬ青年エルグが登場します。並みいる男友達とはまったく異質の、文字通りエイリアンであるエルグの出現で、セイの強さはぐらつき、不安と孤独に駆られるのです。

 地球で育てられたけれど、故郷の火星を恋い慕うセイは、エルグに連れられて火星へゆき、同胞・火星人との再会を果たします。
 地球人に追われた火星人たちは、辺境の砂漠地帯で、古代人のような生活をしています。シルクロード風の砂漠生活や、ケルトのドルイド(僧侶または魔法使い)に似た、杖を持つ「夢見たち」など、魅力的です。

 ほかに面白いと思うのは、彼らの名前に、鳥を思わせるものが多いことです。シラサギ、ヨダカ、黒羽(クロバ)…、火星には鳥などいないでしょうに。
 ユング心理学では、鳥は魂や精神の象徴としてよく現れるのだそうです。テレパシーを使う火星人たちには、鳥の名がふさわしいのでしょうか。

 この物語は、SF的、哲学的、またジェンダーの問題(火星人の男女差はあいまいです。クロバは女性なのに男性的戦士だし、ヨダカは男性から女性になります)など、いろんなテーマをふくんでいて、とても私には語り尽くせない感がありますが、少女セイの大人への試練(イニシエーション)と、火星という一つの惑星の運命とが、次第にぴったりと重なってきます。

 そして…、だから、切なく悲しいのです。火星は砕けてしまいます。セイの恋いこがれた赤い星は、なくなってしまうのです。
 そして、少女セイも(この時点では)大人の女性になることができませんでした。彼女を愛したエルグの呼び声にこたえようとした時、彼女のからだはもうなかったのです。この意味では、セイはイニシエーションで失われたのです、火星のように。

 セイの命は女性になったヨダカの胎内で、赤ん坊として再生することになります。火星と同様に滅ぼされた惑星ネクラ・パスタに、再生の兆しが見えたように。

 けれどそれはまた別の物語。
 最後の場面で、生まれ変わった子供のセイを抱きながら、火星を悼むサンシャイン(陽一)の姿が、切ないです。





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Last updated  November 3, 2005 10:29:55 PM
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