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HANNAのファンタジー気分

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September 11, 2008
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テーマ:本日の1冊(3684)

 なつかしいSFが再版されているのを見かけました(画像左)。私はこの物語をファンタジーっぽく読みましたが、1984年「日本SF大賞」受賞ですから、やっぱりSFなんでしょう。
 当時は20世紀末が近づいていて、大学で「シュールレアリズム(超現実主義)宣言」のレポートを書かされたり、クリムトの絵だとかに惹かれたりしていました。シュールレアリズムの時代とのタイムスリップの出てくる話、ということで読んでみたのがこの本『幻詩狩り』(画像右)です。

 SFはあまり読まないので、川又千秋の他の作品をまったく知らないんですが、第一印象は、内容の割にすごく読みやすい(軽い)話!でした。自分でも偏見だとは思うんですが、どうも日本のSFの中には時々、とても俗っぽいミステリー風な始まり方あって、物語全体の格を下げているような気がするんです。この物語もまず、取締官が「ブツ」の受け渡しをする男女を追ってラブホテルに踏み込む場面があって、いやそれはそれでいいんですけど、その書き方がホントに俗っぽい。
 ところが、麻薬以上に厳しく取り締まり、撲滅しようとしている「ブツ」とは、1948年に無名の天才美青年が書き、シュールレアリストたちをひそかにとりこにした「幻の詩」だというのです。そして、次の場面では、その当時の物語が展開します。ここでの主人公は「シュールレアリズム宣言」を書いたアンドレ・ブルトン。
 詩の作者も、それを読んだ人々も、魂がその場から失われ、「眼をかっと見開いたまま」死んでしまいます。詩の題は「時の黄金」、復刊された文庫版の表紙にあるL'OR DU TEMPS。詩人は、その前にも「異界」「鏡」という2つの詩を書き、言語で世界を創り上げる――描写するのではなく、文字通り創る――という魔術のようなことをやってのけます。そして3作目に言語で時間そのものを創り、創り上げたとたん、現在という「時」から吸い出されて四次元的時空に行ってしまったのです。

 私がまず惹かれたのは、1作目の「異界」。魚だの水晶体だの月夢だのというシュールな言葉の合間に「ドゥバド」という呪文が繰り返し織り込まれ、その「ドゥバド」が、「世界」を創るのに本来言葉では足りない部分を埋める接着剤として使われ、そうして完全なる「異界」ができあがった、というのです。
 すぐに、トールキンのファンタジー論における「準創造」を思い出しました。トールキンはまさに、言語で世界を創った人だからです。単なる造語ではなく、いくつもの言語の誕生、発達、分岐、などを体系的に創り上げ、一つ一つに歴史を持たせ、そうして重厚な時空を持つ別世界を丸ごと創り上げた人。その世界を“読む”時、読者は単なる物語を超えて、世界そのものが本当に目の前にたちあらわれてくるような錯覚にひたることができます。錯覚、と書きましたが、『幻詩狩り』の天才詩人の「異界」では、錯覚というより、幻視という感じです。

 そして、この本の三つめの場面で、3作目「時の黄金」が1984年に偶然再発見され、ある出版社に持ち込まれます。それを訳した人や読んだ人が次々と「眼をかっと見開いて」死んでゆく。肉体は死ぬけれど、それは魂が詩の作り出した「時」にとらわれて漂い出てしまうから。
 驚いた当局が、この詩と詩を読んだ人の「撲滅」に乗り出す、それが冒頭の俗っぽい場面だったのでした。

 で、「時の黄金」です。言語で時を創る、というのも、私にはやっぱりトールキン的だと思えます。彼は創った言語体系に歴史を与えていったからです。造語とそれにまつわるエピソードの練り直しは、『指輪物語』の出版後も果てしなく途方もない範囲で続けられ、そのまま彼は死を迎えました。けれど、「ニグルの木の葉」という彼の短編を読んだ人は知っていますが、トールキンはおそらく死後、彼岸ですべての完成品を得たのです。雑事に追われながら死ぬまで未完の木に葉っぱを一枚一枚描きつづけた画家ニグルが、天国?ですばらしい彼の“木”を得たように。
 ただ『幻詩狩り』では、完成品「時の黄金」が現世に存在してしまいました。作者は書き上げた原稿を握ったまま四次元の彼方へ行っちゃえば良かったのに、原稿を残して行ったのです。それが、悲劇のもとになりました。

 さて、物語の結末は、タイム・トラベルものの常道です。つまり、原稿を消し去ればいい。すべては、なかったことに・・・
 しかし、言語で時空を創り操るという魅惑的な発想は、原稿が抹消されても、残ります。いつかどこかで、誰かがまた、究極の言語法を発見して、世界を創るかもしれない。それは原子力や放射線のように、遺伝子複製のように、手の届きうる禁断の領域であるように、思えます。





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Last updated  September 11, 2008 11:54:59 PM
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