1372083 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
May 17, 2013
XML
カテゴリ:Hannaの創作
 思い立って、ずいぶん昔つくった童話を電子化しておくことにします;
 1991年、児童文芸家協会第4回創作コンクール幼年童話部門二席の作品です。二席なので、雑誌に掲載されることもなかったです泣き笑い
 選評いわく、「題名がもう少しなんとかならなかっただろうか」。うーん、そう言われましても。
 植村花菜の「トイレの神様」の歌やお話がヒットしたのは、確か2010年のことでしたねー。
 で、これは全然べつのお話です、念のため。

* * *

便所の神さま

「ダイちゃん、おじいちゃんちへ行くよ」
 やった! ぼくは思わず歌っちゃう。
「♪おじいちゃんち だぁーいすき!」
 おじいちゃんちは遠いけど、広いにわに、いいものがいっぱいある。カキの木。井戸。畑。夏休みには、とびきりのトウキビが食べられる。ほかにも、ナスにトマトにエダマメ。どれも最高においしい。
「♪おじいちゃんちの もぎたてトウキビ! やきたて あつあつ だぁーいすき!」
 でもまだ五月なので、トウキビは芽が出たところだろうな。そんなことを考えていると、
「ダイちゃん、はやくして!」
ママはなんだか、ピリピリしてる。でも、いつものことさ。
 パピューン。ママは車をぶっとばした。ぼくは、だぁーいすき、と歌っていたが、ふと、一つだけすきでないものを思いだした。
 なにかというと、それは、便所だ。おじいちゃんちの便所は、すみのかどっこにある。夜なかにえんがわをぺたぺた歩いていくのは、じつは、とってもこわい。 おまけに、水洗トイレじゃないのだ。木のふたのついた、まっくらな深いあながあるだけ。一歩ふみはずしたら、くさい中へ自分もボットンだ。ママは「おトイレ」というけど、ぼくはぜったいさんせいできない。あれは、おじいちゃんのいうように、「便所」だ。
「♪あれさえなければ いいけどなぁー、おじいちゃんちの あのべん…」
「ダイちゃん! しずかにしなさい」
 ママが低い声で言った。
「おじいちゃんね、なくなったのよ」

 おじいちゃんちについたけれど、しらないよその家みたいだった。黒いせびろふくが何人も、出たり入ったりしている。ぼくはもう、歌どころじゃなかった。まっすぐ二階へ行かされた。トウキビも、なんにも見ないうちに。
 ゆうがた、おばあちゃんが、ハンカチを目にあてて二階に上がってきた。
「ゆうべ、夜なかにお便所に行って、そのあと、またねたのに…けさになってもおきてこんかった。こんなに早く死んでしまうとは」
 おじいちゃんはほんとに死んじゃったのか、とぼくはそのとき、はじめて思った。

 夜、ぼくはもじもじしていた。トイレに行きたくてしかたない。でも、行きたくない… なぜかって、便所に行くには、くらいえんがわをとおらなきゃならない。よこのへやにはまっ白なさいだんが作られて、おじいちゃんの写真がたてかけてあった。ろうそくの火がゆらゆらゆれている。ただでさえこわいのに、これじゃ、たまらない。
 でも、もうがまんできない。ぼくはかたにぞわーっとさむけをかんじながら、えんがわのはしに立った。一、二、三、ダダーッ!
 なにがなんだか、とにかくこわい! と、
「はしるんじゃありません!」
ママのどなり声。ぼくはホーッとした。
 ガタン、と便所に入ると、あみ戸のまどから外が見えた。用心しながらふたをとって、ハアー、やれやれ、ひと安心。ぼくは、うんとのびをして、外をのぞいた。ぼうっとうすあかるい。こげ茶色の畑のうねに、ペロッとしたトウキビの芽が、ぎょうぎよくはえている。
 かすかに、畑のにおい。雨あがりの公園みたいで、ひんやり、はなのおくのほうまでしみこむ。おじいちゃんちのにおいだ。
「さてさて、いそがしなぁ」
 とつぜん声がしたので、ぼくはとびあがった。もう少しで便所のあなにおちるところだ。「だっ、だれだ」
「わしや。べんじょのかみじゃ」
 見ると、昔話のような、てぬぐいを頭にかぶった小さなやつが、便所紙(べんじょがみ)の上にあぐらをかいている。
 つけくわえておくと、便所にはトイレットペーパーがない。かわりに四角く切った習字の半紙みたいなのが、はこに入れてある。それが「便所紙」で、小男はその上にいた。
 あんまりびっくりして、ぼくはこわいなんて思うひまがなかった。そいつはくりくりした目で、かおは茶色く、しわだらけ。ぼくを見ると、にたっとわらって、
「便所紙とちゃうぞ。むかしのおさむらいは、住んでる場所の名前をとって、河内守(かわちのかみ)、とかいう。わしは便所にいるから便所守なんや」
 そうして、こんどは外をのぞきながら、
「ゆうべおじいちゃんに、畑をたのむ、て言われたけど、こりゃ重労働やな。でも、ダイスケはトウキビたべるんをいっつもたのしみにしてるから、て、おじいちゃん言うてなぁ」
 ぼくはおばあちゃんのことばを思いだした。たしかに、おじいちゃんはゆうべ便所に行ったのだ。でも、なんでこんな便所紙──じゃない、便所守なんかにたのんだんだろう?
 すると便所守はのびあがって、口をはんぶんあけ、まどの外をのぞきながら言った。
「ここの畑のもんが、あおあおしておいしいのはなんでやと思う? あんたのおじいちゃんが、便所からくみとったこやしをまいとったからじゃ。なによりええ肥料になるんやで」
「便所の? わー、きったねぇー」
 ぼくは言ったあと、口をおさえた。便所に住んでいる便所守に、しつれいだったかな?
「きったねぇーくても、いちばんの肥料や」
便所守はぼくの口まねをして言った。
「あんたのおしりから出たもんが、やさいやトウキビのえいようになっとる。それでもって、やさいやトウキビが、あんたのえいようになってるんや」
「おえーっ、それじゃ、おしりから出したものをまたたべてることになる!」
「そや。出して、たべて、出して、たべて、みんなぐるぐるまわっとるんや」
 便所守はとくいそうにふんぞりかえった。
 きゅうにそのとき、外からママの声が、
「ダイちゃん、おなかのぐあい、わるいの?」
「ううん、だいじょうぶ」
 ぼくはあわてて木のふたをした。便所を出るとき見ると、便所守がウインクをしていた。


つづく。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  May 17, 2013 11:33:04 PM
コメント(0) | コメントを書く
[Hannaの創作] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
別の画像を表示
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、こちらをご確認ください。



© Rakuten Group, Inc.