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テーマ:短編小説を書こう!(490)
カテゴリ:Hannaの創作
思い立って、ずいぶん昔つくった童話を電子化しておくことにします;
1991年、児童文芸家協会第4回創作コンクール幼年童話部門二席の作品です。二席なので、雑誌に掲載されることもなかったです。 選評いわく、「題名がもう少しなんとかならなかっただろうか」。うーん、そう言われましても。 植村花菜の「トイレの神様」の歌やお話がヒットしたのは、確か2010年のことでしたねー。 で、これは全然べつのお話です、念のため。 * * * 便所の神さま 「ダイちゃん、おじいちゃんちへ行くよ」 やった! ぼくは思わず歌っちゃう。 「♪おじいちゃんち だぁーいすき!」 おじいちゃんちは遠いけど、広いにわに、いいものがいっぱいある。カキの木。井戸。畑。夏休みには、とびきりのトウキビが食べられる。ほかにも、ナスにトマトにエダマメ。どれも最高においしい。 「♪おじいちゃんちの もぎたてトウキビ! やきたて あつあつ だぁーいすき!」 でもまだ五月なので、トウキビは芽が出たところだろうな。そんなことを考えていると、 「ダイちゃん、はやくして!」 ママはなんだか、ピリピリしてる。でも、いつものことさ。 パピューン。ママは車をぶっとばした。ぼくは、だぁーいすき、と歌っていたが、ふと、一つだけすきでないものを思いだした。 なにかというと、それは、便所だ。おじいちゃんちの便所は、すみのかどっこにある。夜なかにえんがわをぺたぺた歩いていくのは、じつは、とってもこわい。 おまけに、水洗トイレじゃないのだ。木のふたのついた、まっくらな深いあながあるだけ。一歩ふみはずしたら、くさい中へ自分もボットンだ。ママは「おトイレ」というけど、ぼくはぜったいさんせいできない。あれは、おじいちゃんのいうように、「便所」だ。 「♪あれさえなければ いいけどなぁー、おじいちゃんちの あのべん…」 「ダイちゃん! しずかにしなさい」 ママが低い声で言った。 「おじいちゃんね、なくなったのよ」 おじいちゃんちについたけれど、しらないよその家みたいだった。黒いせびろふくが何人も、出たり入ったりしている。ぼくはもう、歌どころじゃなかった。まっすぐ二階へ行かされた。トウキビも、なんにも見ないうちに。 ゆうがた、おばあちゃんが、ハンカチを目にあてて二階に上がってきた。 「ゆうべ、夜なかにお便所に行って、そのあと、またねたのに…けさになってもおきてこんかった。こんなに早く死んでしまうとは」 おじいちゃんはほんとに死んじゃったのか、とぼくはそのとき、はじめて思った。 夜、ぼくはもじもじしていた。トイレに行きたくてしかたない。でも、行きたくない… なぜかって、便所に行くには、くらいえんがわをとおらなきゃならない。よこのへやにはまっ白なさいだんが作られて、おじいちゃんの写真がたてかけてあった。ろうそくの火がゆらゆらゆれている。ただでさえこわいのに、これじゃ、たまらない。 でも、もうがまんできない。ぼくはかたにぞわーっとさむけをかんじながら、えんがわのはしに立った。一、二、三、ダダーッ! なにがなんだか、とにかくこわい! と、 「はしるんじゃありません!」 ママのどなり声。ぼくはホーッとした。 ガタン、と便所に入ると、あみ戸のまどから外が見えた。用心しながらふたをとって、ハアー、やれやれ、ひと安心。ぼくは、うんとのびをして、外をのぞいた。ぼうっとうすあかるい。こげ茶色の畑のうねに、ペロッとしたトウキビの芽が、ぎょうぎよくはえている。 かすかに、畑のにおい。雨あがりの公園みたいで、ひんやり、はなのおくのほうまでしみこむ。おじいちゃんちのにおいだ。 「さてさて、いそがしなぁ」 とつぜん声がしたので、ぼくはとびあがった。もう少しで便所のあなにおちるところだ。「だっ、だれだ」 「わしや。べんじょのかみじゃ」 見ると、昔話のような、てぬぐいを頭にかぶった小さなやつが、便所紙(べんじょがみ)の上にあぐらをかいている。 つけくわえておくと、便所にはトイレットペーパーがない。かわりに四角く切った習字の半紙みたいなのが、はこに入れてある。それが「便所紙」で、小男はその上にいた。 あんまりびっくりして、ぼくはこわいなんて思うひまがなかった。そいつはくりくりした目で、かおは茶色く、しわだらけ。ぼくを見ると、にたっとわらって、 「便所紙とちゃうぞ。むかしのおさむらいは、住んでる場所の名前をとって、河内守(かわちのかみ)、とかいう。わしは便所にいるから便所守なんや」 そうして、こんどは外をのぞきながら、 「ゆうべおじいちゃんに、畑をたのむ、て言われたけど、こりゃ重労働やな。でも、ダイスケはトウキビたべるんをいっつもたのしみにしてるから、て、おじいちゃん言うてなぁ」 ぼくはおばあちゃんのことばを思いだした。たしかに、おじいちゃんはゆうべ便所に行ったのだ。でも、なんでこんな便所紙──じゃない、便所守なんかにたのんだんだろう? すると便所守はのびあがって、口をはんぶんあけ、まどの外をのぞきながら言った。 「ここの畑のもんが、あおあおしておいしいのはなんでやと思う? あんたのおじいちゃんが、便所からくみとったこやしをまいとったからじゃ。なによりええ肥料になるんやで」 「便所の? わー、きったねぇー」 ぼくは言ったあと、口をおさえた。便所に住んでいる便所守に、しつれいだったかな? 「きったねぇーくても、いちばんの肥料や」 便所守はぼくの口まねをして言った。 「あんたのおしりから出たもんが、やさいやトウキビのえいようになっとる。それでもって、やさいやトウキビが、あんたのえいようになってるんや」 「おえーっ、それじゃ、おしりから出したものをまたたべてることになる!」 「そや。出して、たべて、出して、たべて、みんなぐるぐるまわっとるんや」 便所守はとくいそうにふんぞりかえった。 きゅうにそのとき、外からママの声が、 「ダイちゃん、おなかのぐあい、わるいの?」 「ううん、だいじょうぶ」 ぼくはあわてて木のふたをした。便所を出るとき見ると、便所守がウインクをしていた。 つづく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 17, 2013 11:33:04 PM
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