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カテゴリ:弁護士業務
古口章先生が67歳の若さでご逝去された。
弁護士会からのFAXで訃報を知り、頭が真っ白になった。 でも、同時に、古口先生の真剣なまなざしが頭をよぎり、何かを託されたような強い気持ちになった。 古口先生と初めてお会いしたのはちょうど10年前、私が、相馬ひまわり基金法律事務所の任期を終え、静岡に移ってきた頃だった。 当時、先生は、東京弁護士会に登録されていたが(後に静岡県弁護士会に登録替)、地元静岡大学法科大学院にて教授として教壇に立っておられた。 今だから書けるが、静岡に来た当初、私は、どうしようもなく孤独だった。 まったく知らない土地で地縁も知人もいないのは、2年半過ごした相馬時代と一緒だから大丈夫だと思っていたが、静岡の孤独さは相馬の孤独さと随分と質が異なるように思え、本当に毎日が寂しかった。 原因は、周囲の環境ではなく、自分の中にあった。 弁護士経験が4年あるにもかかわらず、静岡には人脈もない。顧客もいない。 都市型公設事務所である東京パブリック法律事務所、過疎地型公設事務所である相馬ひまわり基金法律事務所での活動を終え、公益活動に従事しているという立場も失ってしまった。 この先、どのように静岡でキャリアを積み重ねていけば良いのか、何に向かって頑張れば良いのか。 この4年間はいったい何だったのか。 敢えて言葉にすれば、こんな想いに支配されていたような気がする。 こんなことなら、静岡から通ってでも元々在籍していた東パブに戻れば良かった等と、非現実的なことを考えてしまい、毎日がとても切なかった。 そんな折、唯一、古口先生が、私の相馬時代のとりとめもない思い出話に真剣に耳を傾けて下さり、「葦名さんはとても素敵な感性を持っていますね。内容はお任せしますので、是非法科大学院でもお話し頂けませんか」とお声かけ下さった。 先に書いた通り、当時の私は、自分自身の誇りや自信を完全に喪失している状態だったので、正直なところ、こんな私が、これから未来に羽ばたいて行く学生に一体何を話せば良いのかと戸惑う気持ちがあった。 それでも、古口先生のお心遣いは素直にとても嬉しく、海の物とも山の物ともつかない私を信頼して、90分を預けて下さる古口先生の想いに応えたいと思い、私なりに精一杯の準備をした。 迎えた当日、私は、本当に初めて、相馬時代の思い出を言葉に載せて、人に伝えるという体験をした。 当時は、人前で話すことにも慣れていなくて、構成も話し方も今と比べても未熟そのものだったが、私は、真剣に耳を傾けてくれる学生たち、そして、学生と同じように真摯な姿勢で、真剣なまなざしで座っていらっしゃる古口先生を前に、その場でも考え考え、一生懸命話をした。 話しながら、私は、私の4年間には、苦労や困難もあったけれど、法の支配という種を荒れた大地に蒔くというこの上なくやり甲斐のある体験が詰まっていたこと、この年月の中で、私自身が、私を必要としてくれる人々に忙しい日々の中で心から励まされ、生きていく喜びを得ていたことに気付いた。 そう、古口先生は、私に、私が積み重ねてきた経験は私にとってかけがえのない財産であることを私自身が気付くきっかけを与えてくださったのだ。 このときのゲスト講義は、幸いにも好評だったということで、以後、数年間、古口先生に呼んで頂き、学生の前でお話しする機会を頂いた。学生の中には、過疎地での勤務に憧れて下さる方、事務所訪問をしたいと申し出て下さる方もいらして、私にとって、キラキラしている若者との交流はこの上ない喜びだった。 そして、古口先生は、どんなときも、「私は葦名先生の話をもう何度もお聞きしているのですが、お聞きする度に感銘を受けます」と学生の前で、真剣な目で頬を紅潮させながら、言って下さった。 あのときの古口先生の表情を思い出すと、心が一杯になり、涙が後から後から溢れてくる。 勿論、静岡でのその後の生活が、それだけで一気に変わったというわけではなかったが、孤独という暗い闇に支配されていた私の心に小さいけれど確かな灯りがともり、いつしか、私は、東京で、相馬で実践したように、この地で、目の前にいる人たちを一人一人大切にしていきたいという想いを持って日々の業務に取り組むようになった。 私の4年間はかけがえのない4年間だったけど、これから積み重ねて行く年月も同じようにかけがえのない時間で、私は私の弁護士人生をどんな立場だろうが一生懸命積み重ねて歩いていけばいいと思った。 実際に、静岡で積み重ねてきた年月で、私は東京や相馬ではできなかった体験を重ね、それまで気付いていなかった自分の弱さ、自分の強さを発見してきた。 そのあたりのことを、以前にも書いたことがある。 https://plaza.rakuten.co.jp/yyy0801/diary/201405070000/ この日々の延長線上に、私の今も繋がっている。 どんな環境でも、どんな困難があっても、まっすぐにぶつかって、少しでも自分を成長させていきたいという切実な想いは、この時代に種が蒔かれたような気がする。 古口先生がお声かけくださらなかったら、私は、ずっと、孤独感と劣等感にさいなまれていたかもしれない。 真っ暗だった私の心を照らしてくださった古口先生は、学生を大切に愛し、法科大学院を愛し、最後の最後まで、法科大学院の教壇に戻ることを切実に願っていらっしゃった。 学生、教員、静岡大学法科大学院を修了した弁護士たちに、深く慕われていた古口先生は、私に対する形とはまた違う形で、沢山の方々の心に確かな灯りを点されていたことだろう。 古口先生が逝去されても、古口先生に点して頂いた心の灯りが、私の人生から消えることはない。 古口章先生。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.01.19 03:31:55
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