真っ黒な怒り
先日の記事でご紹介したロシアのセーラ(仮名)のフェイスブックのプロフィール写真が気付くと真っ黒になっていた。ウクライナ国旗どころか、セーラの明るい笑顔まで黒一色で塗り潰されている。何が起きたんだろうと胸騒ぎがして、大丈夫?心配しているよ、とDMを送ったら、大筋こんな返事が返ってきた。・気付いてくれて、そして、気に掛けてくれてありがとう・ロシアでは、戦争反対を公言することを禁じる法律ができた・ロシア国内では、戦争反対を公言している人を"traitors"(裏切り者、売国奴、国賊)としてネットで晒す市民運動が起きている・自分はアメリカにいるが、自分の両親はロシアに住んでいるので、自分がウクライナ国旗を掲げていることで両親を万が一にも危険に晒したくなかった・でも、私はこの戦争に感じている心の底からの怒りは変わらない、だから、黒色を選んだ・・・ちょっと心が一杯になりながら、激しい怒りの象徴である黒丸を見つめた。セーラが闘っているものの大きさ、邪悪さ、とセーラが守ろうとしているものの愛しさ、かけがえのなさが、無機質な黒一色から、この上ない程伝わってきた。ウクライナの美しい国土がいわれなき攻撃で破壊され、罪なき人々が日々命を失い、家族を失い、日常生活を失い、先の見えない不安に苦しみ続けている。本当に辛い、辛すぎて正視に耐えないと思いつつ、いや、目をそらしてはいけないと日々葛藤している。一方で既にロシアの兵士の犠牲も数千人に及んでいるとの報道もある。兵士にも当然に家族がいるだろう、彼を育てた両親の悲しみにも想いを馳せる。私が報道で知る限りの今のロシアを見ていると、戦後に生まれた私が、戦争中の日本の状況をあたかも追体験しているような気持ちになって心が非常に動揺する。今のロシアに対してと同様かそれ以上に、世界中から激しい非難が向けられていて、でも、基本的に国民に知らされるのはいわゆる「大本営発表」を通じての情報のみ。みんな、それでも、薄々、何かがおかしいんじゃないかって思っていたと思う。情報統制が、人間の本能、五感で感じることまでシャットアウトできるわけがないから。でも、戦争反対を公言するどころか、そのような想いを抱いていると知られただけで、逮捕され拷問され命を落とすリスクに晒される。近隣同士で不満分子を見張り合う窒息しそうな社会。セーラのメッセージを見て、"traitors"を辞書で調べて(ロングマン英英だと、someone who is not loyal to their country, friends, beliefだそうです)、なんて嫌な響きの、なんて心を深くえぐる言葉なんだろうって凄まじい衝撃を受けたけど、日本語にも、数え切れない程同じ意味の言葉ありますよね。書きたくないので書きませんが、多分、戦争中は、今よりもっと公の言葉だった筈だ。兵士の命の軽さも一緒だ。十数年も慈しんで愛情を注いで育てた息子を赤紙一枚で国家に差し出し、「名誉の戦死」「玉砕」などの虚言装飾でその死を受け入れることを強いられる。・・・でも、大事な息子の死を悼んでくれる人は、世界のどこにもいない。国家は勿論責任を取らない。世界は祝う、息子の死を。憎い日本の憎い兵隊の命が尽きたことは喜ばしいことであっても、悼まれることはない。正義が勝った、悪は滅びた、それだけのことだ。全体国家の中で生きることを強いられた市民の歴史がある日本だからこそ、分かること、できることがあるんじゃないだろうか、って思うけれど、どうしたら良いのかは私にも分からない。でも、ロシア国内のことを他人事とは思えないこと、ロシア出身者、ロシア国内の人々の個々の信条・心情にも想いを寄せる自分でいたいと思うこと、は言葉に残しておきたい。