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■『自然界をゆるがす「臨界点」の謎-宇宙・生命・物質のすがたはこうして一変する』矢沢 潔 ほか 2009年発行
ジャンル名:自然科学 404シ 3.11以降、臨界という言葉は原発関連でよく聞かれるようになった。原発のことに限らず、本書によれば、「臨界点」と呼ばれる逆らいがたい瞬間が、この世界には無数にちりばめられているという。そもそも「臨界点(クリティカル・ポイント)」とは、変化の流れを突然停止させ、ときには逆行あるいは加速させ、又その流れを別の方向へと導いて、以前の状態の破壊と新たな生成を引き起こす現象の瞬間のことである」と冒頭に説明がある。 まずは、生物の大発生の話。1870年代のアメリカ中西部でのバッタの大発生。通常は地上性バッタとして短距離を後ろ足でジャンプして移動し、単独で生活。これに対して飛蝗化したバッタは翅が長く伸び、後ろ足が短くなる。長距離を飛翔する能力をもち、集団を形成し(群居性)、群れの成員がいっせいに同じ方向へ移動するという習性をもっているという。通常のバッタが、相変異を起こして、飛蝗化する。バッタは臨界点をいつ超えたのだろうか。 続いて生物大絶滅の臨界点。ぺルム期-三畳期の境の大絶滅では陸上性爬虫類の科のレベルで80%が絶滅したという。絶滅時には浅い海が干上がる海退が起こることが多いらしい。その原因の一つ、地球深部からのマントルブルームの上昇がプレートを動かす。こうして生まれる火山台地(火成岩区)の形成は過去の大量絶滅にはつねに付随することらしい。果たして、地球生物の大量絶滅の臨界点はマントルブルームと関係して周期的に生じるのか。それとも偶然事象としての天体の地球衝突によって訪れるのか、それらの複合か。…と話の尾を引きつつ、次のカンブリア紀の生物進化の爆発的飛躍へ話は展開する。この爆発は極寒期の後にやってきた。その1つ前の極寒期のあとには、真核生物が生まれている。「気候の激変が生物の爆発的な発展と多様化を引き起こしたのであろうか」。臨界点に達したのは環境か生物か。 さらに星の臨界点の話へ。星の中心核の質量は太陽の1.4倍程度の「チャンドラ・セカール限界」に達する。「中心核はもはや核融合で生み出される電子ガスの膨張圧(縮退圧)に己の重力を支えることができなくなり、いっきに星全体が中心に向かって崩れ落ちる。」 かと思うと、地球の気候変動の話へ。気象学者ハンセンがアルベド・フィリップ、すなわち太陽光反射率によっていっきに変化させるような気候への強制力により、制御不可能な破滅的変動を引き起こすと警鐘をならす。太陽光をよく反射する氷が広い範囲で溶けると、反射率の低い海面や土壌が露出するため、手に負えない温暖化と氷の融解の悪循環が始まるという。しかし過去のデータでみると、非線形の効果が温度曲線に現れてはいても、「変動の範囲はほぼ一定」という事実から、地球の気候システムとその周期性は非常に堅固であることを物語っているという。ハンセンがいうようには、ちょっとやそっとで正のフィードバックに落ち込んでしまうことはないというのだ。 超流動ではヘリウムの不思議な振る舞いの話。それ以上に驚くのは、深海底の熱水噴出孔から噴き出る超臨界水の話。高温高圧の環境下で水は、水の分子が気体(水蒸気)と同じスピードで運動し、同時に液体と同じ密度をもつという二律背反的な二面性をもつという。「こうして沸点が消滅するのは、水が圧力と温度の臨界点に達したからである」と。超臨界状態で水分子が気体と同じく活発に飛び回る一方、密度が液体と同じであるため、物質はたえず水分子に衝突し、簡単に分解されるという。こうして、海底から噴出する超臨界水は地殻の中に存在するさまざまな金属や無機物を溶かし込んでいると考えられ、もしかすると、「有機物の反応性を高める超臨界水の存在がわれわれの想像を超えた物質を生み、それが生命の材料物質となった可能性もある」と指摘している。ワクワクする話ではないだろうか。 本書ではこのあと、核分裂と核融合の臨界点、そして正常細胞がガン細胞に変わる臨界点、バブル経済崩壊の臨界点と続くのであるが、生命誕生を示唆する上記の超臨界水のワクワク話を以て本日は打ち止めとしておきたい、深海底にて、プクプク…。 (1693字) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011年09月10日 03時17分05秒
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