もうひとつの「サロメの気持ち」
昨年から今年にかけ、リヒャルト・シュトラウス・オペラの公演が多い。 新国立劇場、チューリヒ、ドレスデンと3つの劇場が取り上げた「ばらの騎士」は、さしずめそのシンボル。「ばら戦争」と揶揄された。 その「ばら戦争」、まだ続いていて、2月から3月にかけて、びわ湖ホール(2月2、3日)と神奈川県民ホール(3月22、23日)主催の公演がある。新国でもおなじみのアンドレアス・ホモキの演出が売りだ。 今日、オペラ講座の仕事でびわ湖ホールに行ったら、ちょうどホモキ氏も同席してのリハーサルの最中で、ちょっとだけ見せてもらった。 第3幕のはじめのほうだったが、ホモキ演出ではおなじみ、白黒の装置で、箱のような部屋がさかさになっているなかでの演技。 第1幕では、部屋の位置は正常なのだったそう。初めからみると面白そう、だと思った。 動きはテンポよく、演技は細かくて見ていて飽きない。オックス男爵役のドイツ人若手歌手が、背が高くてイケメンなのがちょっと違う?(でも見たい・・・。笑)面白そうなプロダクションではある。 先週は新国の中劇場で「ナクソス島のアリアドネ」。関西二期会の公演だったが、まあこれは難しいオペラなんだなあと思わされた。 ところで先日、別の場所で、シュトラウスの専門家やシュトラウスに詳しい批評家のひとたちと話していたときのこと。 某大学教授、「サロメ」について、自分の講義で学生に見せると、「半分くらいはよく分かる、っていうんだよね」 え、ひょっとして、首を切ってまでキスしたいサロメの気持ちが? 「いやね、あれは崩壊している家庭でしょ。みんな気持ちがばらばらで、てんでに違うほうを向いていて、娘はとんでもない娘になっていて・・・。そういう家庭の状態が、わかるっていうんだよね。今は、家庭崩壊の時代」 その文脈で解釈すると、私がどうにもなじめなかった、ドレスデンの来日公演のムスバッハの演出は、「実に的確だった」のだそうだ。 「だいたい、家庭っていうのはシュトラウスにとって重要なテーマでしょ。「家庭交響曲」なんてあるし、夫婦げんかのオペラ(インテルメッツオ)もあるし」 たしかに。シュトラウスくらい、「自画像」や「家庭」をいろんな角度から、皮肉をこめて書いた作曲家はいない、かもしれない。 その大学教授、「首切ってもキスしたい気持ちは分かりますか?」と水を向けると、 「いやあ、そっちはちょっとコワイねえ」 とのことでした。ここにこだわる女性の書き手は少なくないのですが・・・。