パリ、オペラ座、ライブビューイングに参入!
ここのところ通っているメトロポリタンオペラのライブビューイング。手頃な価格でフルスクリーンのオペラが楽しめ、ここ2、3年で人気も定着してきました。広報体制も充実しています。 ロイヤルオペラやミラノ・スカラ座など、他のオペラハウスの映像を映画館に配給する試みも散発的にはありましたが、ひろく認知されるまでには至らなかったようで、目下はメトの一人勝ち、といったところでしょうか。 そこへ、パリのオペラ座が参入するという。 試写のご案内をいただき、「ホフマン物語」を見てきました。 パリのオペラ座は、欧米でも5本の指に入るオペラハウスとして認知されていると思います。ここの大きな長所は、劇場が2箇所あり、宮殿のようにゴージャスなガルニエ(旧オペラ座)と、モダンで音響抜群なバスチーユ(新オペラ座)を演目に応じて使い分けているところ。ガルニエはバレエが中心ですが、バロック、古典派などの小さめのオペラにはよく使われます。ガルニエはとくに人気の会場なので、実際の観劇ではチケットがすぐ売れてしまうのが難点ですが、ライブビューイングならその心配なくして、会場の雰囲気を味わえるのも魅力的です。 今年度のライブビューイングの演目は8つ。うち3つがバレエで、会場も2箇所にちゃんと分散していました。フランスはバレエがお家芸ですから、バレエの演目があって、充実しているのも個性です。 オペラハウスとしては、メトのようにスターを集めてきらびやかに、というより、プロダクション全体の力で見せる、というのが特徴でしょうか。今回見た「ホフマン物語」は、そのようなパリ・オペラ座の特徴がよくわかる公演でした。 演出は売れっ子のロバート・カーセン。舞台を劇場に見たて、場面ごとに異なる趣向でその場の物語の空気を上手に創ります。(残念ながら電車が遅れてプロローグは観られなかったのですが )とくに第2幕、アントニアの物語で、二階建ての舞台の1階がオーケストラピットに、2階がオペラの舞台になっていたアイデアは秀逸。アントニアは「歌手」だから、とてもふさわしいですよね。それをバスチーユの大舞台でやるのだから、迫力満点です。これは実際に見てみたい、と思いました。 第3幕のジュリエッタの物語も、舞台上に客席があり、それが「ホフマンの舟歌」にあわせて波のように揺れるというおしゃれな演出。うーん、さすがカーセン。 今回のライブビューイング、メト同様幕間のインタビューもあります。楽屋に入り込んで歌手や演出家に突撃する、という趣向。カーセンのインタビューもありました。全体を劇場に見立てるアイデアは、プロローグの「ドン・ジョヴァンニ」から思いついたそう。3つの物語が、男性ホフマンの成長過程をあらわしている、という解釈も面白かった。純粋な片思い(オランピア)、ロマンティックな恋愛(アントニア)、官能的な愛(ジュリエッタ)ということだそうです。なるほどねえ。 歌手ではまずオランピアを歌ったジェーン・アーチボルドに瞠目。名前は知っていましたが聴いたのははじめて。技術的にもハイレベルだし、ちょっと硬質の金属めいた輝きのある声が、自動人形であるオランピアにぴったり。ドレスが脱げてしまう演出にはちょっと笑えましたが。 アントーニアのアナ・マリア・マルティネス、ニクラウス=ミューズのケイト・アルドリッチも好演。アルドリッチはリヨン歌劇場の来日公演や、ラ・ヴォーチェの「ドン・キショット」などで日本でもおなじみのメッゾで、最近スカラ座など各地で大活躍しています。 もうひとり驚いたのが、タイトルロールのステファノ・セッコ。彼も日本で「椿姫」を歌ったりしていましたが、どちらかというとリリカルな声で、正直それほど強い印象を受けたことはありませんでした。けれど今回は出ずっぱりのこの難役を、終始安定した、柔らかなテノールらしい声で歌い上げ、ナイーブな詩人の物語に強い印象を残しました。歌手が上昇していく様子をみるのは、嬉しくまた楽しいものです。 パリ、オペラ座のライブビューイングは2月から公開。第1作はバレエの「ドン・キホーテ、続く2作目のオペラ第1作はフランスオペラの代名詞、「カルメン」だそう。メトとはまた違ったテイストのハウスなので、見比べるのも面白いと思います。 http://www.opera-yokoso.com/