新型コロナは「物から人へ」>> 虎の門ニュース5月1日 武田邦彦
新型コロナは「物から人へ」>> 虎の門ニュース5月1日 武田邦彦◎不要不急の外出自粛??◎新型コロナは表面型感染(物から人、コロナ)インフルエンザ治療薬「アビガン」開発に携わった富山大名誉教授の白木公康先生の論文より◎ 学術論文:富山大名誉教授の白木公康先生参照:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=143051. コロナウイルスの特徴コロナウイルスはエンベロープを有するので,エタノールや有機溶媒で容易に感染性がなくなる(不活化できる)。RNAウイルスの中で最大のゲノム(遺伝子)を有しており,プラス鎖一本鎖のRNAを遺伝子とする。その長さは約30kb(3万個の塩基)である。・・・・2. コロナウイルスの増殖インフルエンザウイルスは,感染して6時間で増殖を終えて,108/mL程度の感染性ウイルスを産生する。SARSコロナウイルスは,6時間程度で増殖し,105〜6/mL程度のウイルスを産生する2)。したがって,気道上皮細胞からのコロナウイルス放出はインフルエンザの約100分の1程度と推測できる。3. ウイルスの感染能力の安定性飛沫感染は2m離れると感染しないとされている。オープンエアでは,2mまで到達する前に,種々の大きさのaerosol(エアロゾル,微小な空気中で浮遊できる粒子)は乾燥する。60~100μmの大きな粒子でさえ,乾燥して飛沫核になり,インフルエンザウイルスを含む多くのウイルスは乾燥して感染性を失う3)。したがって,コロナウイルスはインフルエンザ同様,エアロゾルが乾燥する距離である2m離れたら感染しないと思われる。しかし,湿気のある密室では空中に浮遊するエアロゾル中のウイルスは乾燥を免れるため,驚くことに,秒単位から1分ではなく,数分から30分程度,感染性を保持する4)〜6)。インフルエンザウイルスの感染能力(ウイルス力価)は,点鼻による鼻腔への感染では,127~320TCID50で,それに比べてエアロゾルでは0.6~3TCID50と約100分の1のウイルス力価で感染する7)〜10)。5~10μmのエアロゾル(飛沫と呼ばれる)は30mの落下に17~62分を要し,沈着部位は鼻腔や上気道である。一方,2~3μm(飛沫核)は落下せず,吸入時には肺胞に達する。このように,エアロゾルは大きさによって上気道や肺胞の標的細胞に達する。インフルエンザウイルスでは,通常の呼気の87%を占める1μmのエアロゾルも感染性を有し気道で感染する11)。注意すべき点は,湿気の高い密室では2m離れていても,くしゃみや咳だけでなく,呼気に含まれる1μm程度のエアロゾルさえ感染性を保持して浮遊し,吸気によって上気道または下気道で感染するということである。密室におけるインフルエンザの集団感染例としては,空調が3時間停止した飛行機内で,1名の患者から37名に感染している12)。多くの人が密集し呼気のエアロゾルが乾燥しない空間では,感染者がいると感染は避けがたく,多数の感染者が発生する。点鼻では感受性細胞に到達できるウイルスが限られるが,エアロゾルの噴霧は上気道・下気道の上皮細胞に直接感染するため,100倍以上効率よく感染できると思われる。一方,物を介する感染(fomite transmission)では,さらに多くのウイルスが必要と思われる。このように,感染する場所と,感染が「上気道」あるいは「下気道」のどちらから始まるかが,ウイルスの検出部位(鼻咽頭拭い液か喀痰)と検出までの時間や感染病態に影響を与えていると思われる。また,2009年の新型インフルエンザ流行の際に医学部生の感染機会を調べた研究によると,多くが「カラオケ」であった。このように,単に密室を避けるのではなく,湿気が多い空間・密室では換気や除湿を心がけ,飛沫が乾燥しやすい環境として,人と人の距離を2m保持することで,感染の回避は可能と思われる。4. 湿度と気道の乾燥,エアロゾルの乾燥前項で密室の湿度とウイルスの感染性について記載したが,以下の誤解は避けて頂きたい。気温5度と30度の湿度50%では,空気中の水分量はそれぞれ,3.4mg/Lと15.2mg/Lである。一方,肺胞は,37度の湿度100%で43.9mg/Lあるので,1回の呼吸量(500 mL)では,外気を吸って肺胞に至るまでに,冬は鼻腔・気道の水分を約20mg奪い,夏は約14mgを奪う。つまり,冬は夏に比べ,1回あたり6mgの水分を余分に奪うため,冬は気道が乾燥しやすい。したがって,マスクの使用は吸気の湿度を保ち,気道粘膜の乾燥を防ぎ,繊毛運動の保持には有用であると思われる。このように,部屋の加湿は気道には優しいが,呼気や咳・くしゃみにより生じたエアロゾル中のウイルスの乾燥を妨げ,感染性を保持しやすいことになるため,湿度を上げすぎないことに留意するべきであると思う。5. COVID-19の感染様式新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染様式は,従来のヒト呼吸器コロナウイルスの感染様式(物を介する感染)とインフルエンザ的感染様式(飛沫感染)が考えられる(図1)・・・6. ヒトへの実験的ウイルス感染よりわかることヒトに対するウイルス感染の実験により,「感染後いつ発症するか?」「いつまでウイルス排泄が続くか?」「再感染はいつごろか?」が推測できる。インフルエンザは,早ければ18時間で発症し,約2日でウイルス量は最高に達し,発熱,頭痛,筋肉痛は,上気道症状より早く回復する。抗体保有状況により34.9%が発症する13)。ウイルス排出は約1週間続き,人によっては20日観察されている14)。感染性ウイルスは主要症状消退後にも認められる。鼻かぜ(コロナウイルスとライノウイルス)は,感染3日後に発症し,ライノウイルスは3週間,コロナウイルス感染動物では約1カ月程度ウイルスが検出される。7. COVID-19の臨床的特徴と治療COVID-19の臨床的特徴は,インフルエンザのような感冒症状に加えて,致死性の間質性肺炎・肺障害を発症する点にある15)。中国CDCは2月11日までに収集した7万2314患者例の中で,確定患者4万4672例(61.8%)について報告した(表1)16)。確定例は80%が軽症で,インフルエンザがイメージされる。残りは肺炎を合併し,14%が重症,5%が危機的で呼吸管理を必要とする患者で,死亡率は全体の2.3%と報告され,図2のような年齢的な特徴がある16)。特に,SARSと同様に,50歳を超えると発症率・死亡率が上昇し,表1のような基礎疾患があると重症になる。入院患者の症状を表2に示す。肺障害の病理像は,SARSやMERSの肺炎に類似しているようである17)。間質性肺炎の合併は,発症平均8日後に息苦しさとして報告されている15)。8. COVID-19の肺炎の早期発見COVID-19に感染した場合に備えて,肺炎を早期に発見するためには,毎日検温をして平熱を把握し,発熱のチェックをする。4日以上持続する発熱は鑑別できる発熱性疾患が限られ,COVID-19のサインと思われる。発熱後8日で呼吸困難が出る。・・・発熱後5~6日ごろの病初期では,階段上りや運動など酸素必要量が多い時のみ,息切れを感じる。この労作性呼吸困難(息切れや呼吸回数の増加)により,肺障害を早期に推測し,治療に結び付けることが重症化を防ぐために重要であると思う。その際に,画像診断とPCR法で確定できる。9. おわりに本稿では,COVID-19は鼻咽腔でウイルスが確認されることを踏まえ,ヒト呼吸器コロナウイルスとインフルエンザの感染様式から,COVID-19の感染様式を推測してみた。ダイヤモンド・プリンセス号では1名の感染者から約700名が感染していることから,上気道の呼気や咳・くしゃみによって感染した場合に,どの程度の距離の接近であったのか?あるいは,物を介する感染(fomite transmission)はどのような状況であったのか?等の詳細な情報24)があると,今回のような原則的な感染様式の解説ではなく,具体的な予防策が明らかにできるように思われる。今後さらに,多くの情報が集積されてくると思われるが,現時点(3月上旬)の情報に基づいて,COVID-19の全体像が明らかになりつつある状況の解説を試みた。参考になれば幸いである。なお,日本感染症学会ではホームページに「新型コロナウイルス感染症」のコーナーがあるので参照されたい。次回は,一部のCOVID-19患者に投与されている抗インフルエンザウイルス薬ファビピラビル(商品名:アビガン)について解説する(No.5005掲載予定)。