斎藤茂吉 陸奥をふたわけざまに聳えたまふ蔵王の山の雲の中に立つ
斎藤茂吉(さいとう・もきち)陸奥みちのくをふたわけざまに聳そびえたまふ蔵王ざわうの山の雲の中に立つ歌集『白桃』(昭和17年・1942)みちのくを二つに分けるさまに聳えていらっしゃる蔵王の山の雲海の中に私は佇たたずんでいる。註昭和8~9年頃の作。ふたわけざまに:蔵王連峰は、分水嶺の剣が峰として、奥羽地方を東西二つに分けているようだ。「ふたわけざま」なんて言い回し、読めばたちどころに意味は分かるが、一般人が逆立ちしても出てこない、簡潔にして雄渾強靭な表現である。優れた詩歌人にのみ許容される造語が比較的多いといわれる茂吉の、これも造語だろうか。聳え:古語動詞「聳ゆ」は、ヤ行の(下二段)活用だから、連用形の送り仮名は「(ヤ行の)え」になる。「見ゆ」と同様。