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カテゴリ:海外スケッチ紀行
キーワードはケンタロウスになる夢、瞳、蛍。 まずひとつはカヤック。 一人乗りのカヌー。 それでマレーシャの川を上った。 水面すれすれに身をおき滑るように動くカヌー。 ギリシャ神話の下半身が馬、上半身が人がケンタロウス。 カヤックは水の上のケンタロウスとか。 たしかに下半身をカヤックという細長い胴の小船に身をゆだねると 水の上を水鳥のように自在に移動し人間ならぬ世界へ跳躍できる。 このカヤックツアーを企画したのは、マレーシャ滞在の、 流暢にマレー語を話す日本の好青年坂本君。 カヤックが好きだと言う理由でマレーシャにすでに2年。 カヤックは両端にペダルがついた一本のオールを交互に水に入れて漕ぐ単調な動作。 単調そうで、お茶の作法に似た深い奥義があるよう。 私は、激しく漕いで手を休め滑るように流れる水の面を楽しんだ。 坂本君のは違っていた。 ひとかきして空を見上げ周囲を見渡し次の掻きを入れる。 まるで瞑想する哲学者のような風情があった。 スペインの巡礼路でも小さな子供たちが 一人乗りのカヤックを心から楽しんでいた。 日本の川は、大人がたくさんのダムを作って いつ増水するかわからない危険な川にしてしてしまい 子供たちから、この歓びを奪った。 2番目の体験は、カヌーで上った先、 船を下りて休憩所に向かったところにあった。 その入り江には川の中に柱を立てて数件の家があった。 陸地から離れた川の中に。 子供たちが大声で呼んでいる。 そこが休憩場所だった。 潮の引いた河口のヘドロに足を取られながら、その中の一軒に入った。 足のヘドロをバケツの水で洗うと、12畳ほどの板間に 9人の子供が眼を輝かせて待っていた。 木を柱に打ちつけただけの粗末な小屋。 調度品は、映りの悪いテレビだけ。 子供たちは、自分たちの船を漕いで学校に行くと後で知った。 一日中、この一部屋を世界としてにぎやかにこの9人はここで遊ぶのだろう。 なにしろ、潮が満ちてくると、家は水の中にぽつんと立っているのだから。 それでも真っ黒な子供たちの眼は輝いていた。 貧しいながらこの子達はひきこもりとか家庭内暴力とは無縁のよう。 お父さんはまだ川で漁をしているとふっくらした 眼の美しい、そのうち7人の子の母親が答えた。 絵をかいてやろうとすると皆恥ずかしがってなかなか前に出てこない。 子供たちは、みな母親ゆずりのいい眼をしていた。 そのあと、ふたたび暗闇の中の川を上った。 やがって出会った神秘的な光景。 不思議な木の花に群がる光の群れ それがマレーシャの蛍 まるで慎ましいクリスマスツリーのように幻想的に輝いていた。 ひと夏の 果てにやさしさあるならば 点滅しつつ 消える蛍火 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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