空想俳人日記手塚治虫作品限定版

混沌の　中に自分と　宇宙あり　


　カオスという名の主人公。別にキャオスと呼ばれてもいいじゃありませんか。ようは、混沌でしょ。
　彼が獣のような宇宙人と出会った際の第一印象、つい見下すのですが、どうやら自分以上の高等生物であることに気づく経緯は素晴らしいですね。
　それから、物語が進む中、いろいろな宇宙人と出会いますね。彼の体内に卵を産みつけようとする女性宇宙人も出てきますが、見るからに人間くさい。地球人に外見が似ているので素直に感情移入しちゃう正直さもいいですね。
　流刑の地に捨てられ、孤独と戦うカオス。でも、そこで、様々な宇宙人と出会い、友情の絆を作っていくカオス。
　彼の幼なじみの大の仲良し、ライバルになっちゃうもう一人の男、大郷くんは、どんどん出世しますが、どんどん孤独にもなっていく、カオスと反比例ですね。孤独って何か、そんなんが分かるお話でもあります。
　どっちが楽でどっちが大変？　まあ、そんなことより、孤独なカオスが宇宙人とどんどん信頼関係を築く反面、人間だけの世界に生きる大郷を中心に、私たち人類は愛という様々な形態、恋愛、家族愛、兄弟愛などなど、人類の進歩と調和の暁にはみななくなってしまい、唯一残るのは友情だけじゃないか、そんな仮説のお話でもあります。
　もちろん、その友情も残るかどうか。お話の大団円あたりでＹＥＳと言いたい手塚先生の思想が少々見えます。とはいえ、あとがき的漫画にもありますが、友情への憧れというか羨望がありながら、先生自身、それを持ち合わせていないことを吐露しています。私も同感ですけど。
　カオスは商人として成功していきます。「ベニスの商人」を思い出します。でもカオスはビジネスとしての付き合いだけでなく人としての信頼関係を作っていきますね。おそらく日本の経済人たちにこありあん、と言うように。
　カオスはキャオスでも混沌。大郷はカテゴリーとかセグメントかも。そういう戦略は巷に数あれど、自分まで了見狭い人間になっちゃうと、相手の言葉も態度も見えない自己中心的な人間になりますよね。しかも、そうした人間が上に立ちやすい世界であることを警告してますね。警告してるのは先生じゃなく、宇宙創造に関わった方々。お二人いるらしいけど、まあ、それは追求しなくてもよいでしょう。
　では、ここで、自己中心的な人間にならないためにも、先生による宇宙語講座を。
「サターッ　デー、ナイーッ、フィー、バーッ」
　サタデー・ナイト・フィーバーですね。
「ニーッ　チューッ　ユーッ　コーッ　ジョーッ　ヤクーッ　シダール」
　日中友好条約ですよ。
「ボケナーッ　ルセーッ！！｣
　ボケナス、ウルセイ。
「ガレーッ　シャーッ　テニーッ　カーッ！！」
　これちと難しい。単語を後ろから。勝手にしやがれ、ですね。
「グゾー　グーッ　タエーッ！！」
　これ簡単、くそくらえ、ですな。
「ダカーッ　ラワーッ　シワーッ　カヨーッ　ナヤッ」
「クーッ　メワーッ　スカーッ　ヌノーッ　ジャーッ」
　これ文節切り直し。だから、わしは、かような役目は好かぬのじゃ。
　手塚先生は宇宙語のプロであられたと思います。
　最後に、もう気がつかれた方もおるでしょうが、このお話には、手塚先生のお好きなタイプの女性がオンパレードで登場します。
　大郷と恋愛関係でもありながらカオスにも惹かれてしまうアンヌ。
　アンヌにそっくりさん。だけど少々おちび。あとから分かるけどオパス様なる宇宙創造主の手下みたい。
　そして、実質的にはカオスの良き伴侶である、いつかカオスの体内に卵産みつけたとするマユ。
　孤独な大郷に忍び寄る、小郷千鶴さん。悲しい結末を迎えます。
　カオスをダフネス星のごたごたから救う半獣半神の如き王女オリビア。
　ちょい出だけど、猫に似ていて、念力使えるリカ第３星人からの使いの女性。
　などなど、手塚先生は、女性像を描かせても天下一品。ここで多くに出会えるのも嬉しい限りですね。ちなみに、この作品、第一部完で終わっています。第二部以降の続編の構想があったんですね。そういうの、「火の鳥」もあったみたいだし、多くの先生の構想もったいない。でも昭和で終わった人々の平成への警告は語り継がなければ人間おしまいですよね。ホラ、未来人オサムが何処かの星からやってきたりして。