|
カテゴリ:プライベート
再録mixi 出口のない海と死霊 2008年08月01日
僕の死んだ父は、大学生のとき学徒出陣というので、海軍に入った。訓練中にある時全員が呼び出されて、「今から特殊兵器の乗組員を募集する。志願するものは名前に◯を書いて、提出すること。一時間の間に考えること。お互いに相談しないこと。」と厳命されたという。 名前に◯を書いた者は、その後、「人間魚雷回天」というのに乗り組んだそうだ。人ひとりがやっと入れる魚雷を改造した小型潜水艦で、敵艦に突っ込むのだ。 この間、この人間魚雷回天を描いた小説「出口のない海」を読み、それを原作にした映画を見た。 父と同じ学徒出陣の主人公は、父と同じくある日呼び出されて、同じ事を言われて、その過程が、父が何度か話してくれた思い出話とそっくりだったから驚いた。 違っていたところは、主人公は名前の上に◯を書いたところ。彼は一時間の間、悩みに悩んでいたが、父は躊躇なく志願しないことを選んだらしい。戦局はもう不利になっていたし、特殊兵器とは不吉な気がしたと父は言う。父の父親(僕の祖父)は若い頃にアメリカに歯医者の修行に行って、父は子供の頃シアトルで過ごしたから、どこか日本人離れした合理的なマインドを持った人で、義理人情とか大和魂とかとは縁の薄い人だったと思う。だからあんまり躊躇なく命が大事な方を選んだんではないかと思う。 小説と映画の主人公は、結局は事故で、回天の中に閉じ込められ窒息死してしまう。俳優の人がとても大学生とは思えなかったけれど、なかなか良い哀しい味の映画だった。その映画を見て、父から何度も聞いた話ではあったが、初めてその時、父がもし名前の上に◯を書いて、志願することを選んでいたのならば、僕は生まれていなかったのだなあと思った。それは僕にしては珍しい何か不思議な感覚だった。 映画には描かれていなかったことであるが、紙切れを提出した後、◯をつけなかった者(志願しなかった者)は、呼び出されて、猛烈にビンタされたらしい。それはそれは猛烈なビンタだっと、父は顔をしかめて言ってた。 この僕もまるで「出口のない海」に潜行しているような、あるいは漂えど、沈まずのような日々だから、何かわざわざビンタを受けた父に申し訳ないような気がする。 ところで、チベット人のお坊さんが、 死のハンガーストライキを決起中らしい。 僕はなんとも複雑な気持ちで、 親父のことを何故か思い出してしまった。 関係ないけれど、晩年の親父とそっくの顔をしている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.03.25 12:28:52
コメント(0) | コメントを書く
[プライベート] カテゴリの最新記事
|
|