クロフツの代表作は『樽』『クロイドン発12時30分』ですが、彼の生み出した一番の探偵はフレンチ警部。『フレンチ警部最大の事件』は、その題名の通り、読み応えのある1冊です。
ロンドンのダイヤモンド商会の老支配人チャールズ・デシンが殺され、金庫から10ポンド札とダイヤモンドが消える事件が起こりました。
デシンはなぜ金庫を開けたのか?社長のデューク氏が持つ鍵の複製をどうやって作ったのか?金庫の中身はどこへ?
フレンチ警部には、天才的なひらめきも、派手な推理披露のパフォーマンスもありません。こつこつと積み重なる捜査があるだけです。
登場人物も、強烈な個性とは無縁な分、振り回されることもありません。警部が行き詰まったとき、話を聞いて別の角度から思いついたことを話してくれる警部の夫人には、Good jobと言いたくなります。女性が何でも話してしまいたくなる部下も、いそうで面白い。
捜査のためにスイスを訪れる場面など、その土地の景観や街の様子が詳細に描かれていて、内田康夫の浅見光彦シリーズのようです。
キーワードは「変装」。誰がどんな人物に?フレンチ夫人の一言が鋭い。
参照元:フリーマン・ウィルス・クロフツ 長谷川修二・訳『フレンチ警部最大の事件』
グーテンベルク21デジタルブック