本のタイトル・作者
小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇 (ちくま文庫 いー102-1) [ 伊坂 幸太郎 ]
本の目次・あらすじ
まえがき
眉村卓「賭けの天才」
井伏鱒二「休憩時間」
谷川俊太郎「コカコーラ・レッスン」
町田康「工夫の減さん」
泡坂妻夫「煙の殺意」
佐藤哲也『Plan B』より「神々」「侵略」「美女」「仙女」
芥川龍之介「杜子春」
一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」
古井由吉「先導獣の話」
宮部みゆき「サボテンの花」
編者あとがき
引用
「おまえはだれでもないし、ここはどこでもない。おまえはいないし、おまえはおまえですらない。おまえはどこへも行けないし、どこからも脱出できない。なぜなら脱出する世界も、脱出しようとしているおまえも、どこにも存在していないのだからな。存在するも、しないも、あるも、ないも、ないんだよ」
一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」
感想
2022年159冊目
★★★
伊坂さんが小説の面白さを知ってもらえると胸を張っておススメする短編集その2。
この本の中では、
泡坂妻夫「煙の殺意」
一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」
が面白かった。
「煙の殺意」はミステリによくある「殺人を隠すための殺人」なのだけど、その規模と原因が…。
千人を超える人が目の前でバラバラと死んでいく、その原因が自分にある時。
無関係の「もう一人」を殺すことで、自分のアリバイを証明しようとする話。
芥川龍之介「杜子春」からの一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」の流れはとても面白かった。
「自分も杜子春みたいに最終的に悠々自適の暮らしがしたい」とタクシーでラクヨーを目指す男。
伊坂さんは、芥川の杜子春がないと面白さが伝わらないから、という理由で収録されたそうだけど、こういう「本案」→「翻案」みたいな展開すごく好き。
ちなみに伊坂さんは、芥川作品だと他のものの方が好きだそうです。笑
私は「侏儒の言葉」が好き。
普段小説を読んでいて映像が頭に浮かぶことのない伊坂さんが、これは映像が頭の中ですごかった、という古井由吉「先導獣の話」。
ごめん…私は読みながら寝てた…。
宮部みゆき「サボテンの花」。
これ、伊坂さんがずっと「僕なりの『サボテンの花』が書きたい」と思っているんだって。
私個人としては、宮部みゆきさんは上手すぎてあんまり好みじゃない。
構成が上手い、読ませるのも上手い、登場人物も魅力的。
だから逆に私はつまんないな、と思ってしまう。筆力がすごくて、教科書的で。
読んだら面白いのが分かってるから読む気にならない、という捻くれた思想。
「何なんだコレは?!!」というようなのが好きなんですよね…。
人の本棚はその人をあらわす、と言う。
その人が読んだものがその人を作っている。
そしてこれから読みたい本はその人の関心を。
私は作家さんの書評を集めた本を読むのが好き。
この人が書くものは、こういう本から出てきているんだなあと思う。
この本を読んで、「こう感じた」。
本に書いてあることは、印刷されているものは同じ。
けれどその受け止め方は千差万別、百人百様だ。
その「こう感じた」の機微を、自分の中のさざ波を観察して、もう一度描けるのが作家という職業なのだろうな。
図書館で、カウンターの後ろに到着した予約本が並んでいる。
私は貸出処理をしてもらっている間、それを見るのが好き。
これを読む人はどんな人なのだろう、と思いながら背表紙を眺める。
私の前のおばあさんが、私が読もうと思っていた本を受け取っている。
それは児童書に分類されているものだ。
私もそれ、読みたいと思っているんです。
どうしてそれを、読もうと思ったんですか。
あるいは私の後のおじさんが、私が読んだことのあるシリーズ本を何冊も抱えている。
それ、面白いですよね。その巻、すごい展開になります。
私は心のうちにその言葉を留める。
本と本の間に、無数の言葉が飛び交っているのが見える。
喫茶店のざわめきのように、聞こえる。
そこに書かれていない言葉が。
これまでの関連レビュー
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シーソーモンスター [ 伊坂幸太郎 ]
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クジラアタマの王様 [ 伊坂幸太郎 ]
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逆ソクラテス [ 伊坂幸太郎 ]
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ペッパーズ・ゴースト [ 伊坂幸太郎 ]
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