終わりなき夜に生まれつく
終わりなき夜に生れつく ハヤカワ文庫クリスティー文庫95/アガサ・クリスティ(著者),乾信一郎(訳者) ----------「なぜそんなふうに私を見つめてるの、マイク?」 「どんなふうに」 「まるで愛しているみたいな目で……」物語の語り手、マイケル・ロジャースは<ジプシーが丘>と呼ばれる土地に激しく心惹かれ、その地で知り合った謎めいた富豪の女性エリーと恋に落ちる。結婚したマイクとエリーは、マイクの親友である建築家サントニックスに眷恋の地<ジプシーが丘>に、新居の建設を依頼するが、不治の病に冒されていたサントニックスは、エリーにこんな言葉を投げかける。「あなたは自分のしてることがわかっているのかな」落成した<ジプシーが丘>の館に引っ越して程なく、愛し合う二人の新婚生活には不安の影が射し始めた。窓から石を投げいれられたり、ナイフの刺さった鳥の死骸と脅迫文の書かれたメモが置かれていたり、占い師の老婆に呪いの言葉を投げつけられたりといった嫌がらせの数々。エリーの財産目当てらしい継母をはじめとする親族や取り巻き連中。ことに、エリーと家庭教師のグレタとの親密過ぎる関係に不満と疑念を抱くマイク。そんなある朝、エリーは遠乗りに出かけてそれきり帰らぬ人となった。その二週間後、エリーの知人でサントニックスの異母妹に当たるクローディアも落馬事故で亡くなった。さらにサントニックスまでが病死する。ジプシーが丘の館でたった一人になったマイケルを待ち受けていた運命は.....----------クリスティ本人推しの傑作という自薦他薦の高評価も、個人的には今ひとつ。呪われた土地に建てられた館を舞台に恋人たちが奇妙な事件に遭遇する、レベッカの男性主人公バージョンを思わせるゴシックロマンな作風かと期待したがそうでもなかった。一種の叙述トリックで、主人公の一人称視点で語られているということは、語り手が嘘で読者を騙っているか、複数の登場人物が主人公を欺いてをはめようとしているか、いずれであろうとあたりをつけて読んだところ、当たらずとも遠からずであった。クリスティの「○○○○○殺害事件」と「○○○に死す」の変奏ともいうべき作品。あるいは「赤毛のレドメイン家」を彷彿とさせる物語の構造。これらの作品を未読であれば、傑作と映るかも知れない。トンカツに見えるカレーパンでコーヒーブレイク