テーマ:洋楽(3286)
カテゴリ:洋ロック・ポップス
ロック界の大御所が集った奇跡のユニット
1987年、アルバム『クラウド・ナイン(Cloud Nine)』のリリースで久々の復活を果たした元ビートルズのジョージ・ハリスンが、シングルカット曲のB面録音のために何名かのミュージシャン仲間を集めた。彼らは意気投合・団結し、翌年にレコーディングを開始し、新たなプロジェクトが展開されていく。そのメンバーとは、G・ハリスンに加え、上のアルバムでジョージと共同プロデュースを行ったELOのジェフ・リン、さらには、ロイ・オービソン、ボブ・ディラン、トム・ペティという、意図してもそう簡単には集まらないような面々だった。 グループ名はトラベリング・ウィルベリーズ(Traveling Wilburys)。この名義でのアルバム発表に際して、彼らは各レコード会社との契約上の問題から、「正体不明の覆面バンド」として活動し、誰が見ても正体はばればれだったわけだけれど、公式には実名を明かさずにアルバムをリリースすることになる。 大物ミュージシャンが集まってレコーディングを行うとどんな大作ができるものかと思うかもしれないが、実は、それだけでは、名盤が生まれる保証はどこにもない。それどころか、一流ミュージシャンのプライドや個々のスタイルが衝突しあって、失敗に終わる確立の方が高い。トラベリング・ウィルベリーズの魅力は、それがエゴの衝突する失敗作とはならず、見事に調和した良質な音楽に昇華したという点にある。 『ヴォリューム・ワン(Volume One)』は1988年に発売され、筆者はファーストシングル「Handle With Care(ハンドル・ウィズ・ケア)」のリリースもリアルタイムで体験できた。当初から、「良質な」という形容がいちばん適切だと思った。当時のG・ハリスンのヒット曲「I Got My Mind Set On You(セット・オン・ユー)」や「Devil's Radio(デヴィルズ・レイディオ)」のようにノリノリでもなく、だからと言って聴き手をまったく退屈させないカントリーロック的なサウンドに上のような形容がぴったりだ。 その後、残念なことに、メンバーの一人だったロイ・オービソンが亡くなった。しかし、残るメンバーは彼の死を乗り越えてセカンドアルバムに取り掛かろうとする。しかし、このセカンドに参加予定のデル・シャノンが今度は自殺。セカンドアルバムは幻に終わる(この際のお蔵入りになった音源が存在するとされるが未発表である)。 それでもなお、残ったメンバーは『ヴォリューム3(Volume 3)』を完成させ、1990年にリリースした。紆余曲折の末の「出涸らし」かと思いきや、これがなんと『ヴォリューム・ワン』に比する出来ばえで驚いた。その出来ばえのよさは、もちろんロイ・オービソンの不在によるものではない。むしろ彼の不在が、メンバーを結束させ、よりいっそうの充実をもたらし、見事にまとまったアルバムを作らせたといえる。 「三人寄れば文殊の知恵」というが、5人が集まってこの一体感は素晴らしい。ロイがいなくなって4人になった後もその流れはきっちりと保たれた。気がつくとジョージ・ハリスンももはや故人。このスーパーグループはこのタイミングでしか生まれなかった。それは奇跡に等しかった。天才や奇才が同時に存在することはよくある。けれどもそうした天才・奇才が力を結集して一つのものを創造することはそう簡単には起こらない。人生で、そうした瞬間に立ち会い、その作品に触れることができただけでも、貴重な体験だと言えるのかもしれない。 なお、これら2作は長らく廃盤で入手困難が続いていたが、2007年にリマスター版が再発された。手に入れやすくなった今、実際に聴いてみるいい機会だと思う。 [収録曲] (『ヴォリューム・ワン』) 1. Handle With Care ←おすすめ! 2. Dirty World 3. Rattled 4. Last Night ←おすすめ! 5. Not Alone Any More ←おすすめ! 6. Congratulations 7. Heading For The Light 8. Margarita 9. Tweeter And The Monkey Man 10. End Of The Line 11. Maxine* 12. Like A Ship* *印はリマスター時のボーナス・トラック 1988年リリース。 (『ヴォリューム3』) 1. She's My Baby ←おすすめ! 2. Inside Out 3. If You Belonged To Me 4. The Devil's Been Busy 5. 7 Deadly Sins 6. Poor House ←おすすめ! 7. Where Were You Last Night? 8. Cool Dry Place 9. New Blue Moon 10. You Took My Breath Away 11. Wilbury Twist ←おすすめ! 12. Nobody's Child* 13. Runaway* *印はリマスター時のボーナス・トラック 1990年リリース。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017年11月25日 09時07分37秒
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