サクランボ
庭から会長(愚妻)の呼ぶ声が聞こえる。4月5日、彼女の最愛の伴侶であり、余りある安らぎを与えてくれた愛駄犬「ひめ」は天国に召された。深い悲しみと喪失感から、まだ彼女は立ち直れていないようだ。時が解決してくれるのを静かに待つしかないのかもしれない。数年前に庭に植えたサクランボの木のそばに、ささやかに「ひめ」の墓を造った。そのサクランボの葉がおかしいというのだ。農にかかわってもうすぐ14年、新規就農時に比べればいくらか植物についてはわかるようになっているはずだが、例えば専門外の果樹についての知識は未だに素人同然といってもよい。一見擬態のような感じもある。同じような症状を見かけたような気もしないではないが、お粗末ながら、病害虫のうち、害虫による症状だろう位の判断しかできない程度の知識と想像力だ。早速調べてみると、やはり害虫によるものだった。「虫えい」と呼ばれるもので、植物の葉にコブがついていたり、芽に異常に膨らんだり、奇形になった部分があったりするものだ。確かにほかの植物や野菜の葉でも見かけたような気がする。これらを虫えい、虫こぶ、ゴール(gall)と呼ぶ。植物の内部に昆虫が卵を産み付けることによって、植物組織が異常な発達を起こしてできるこぶ状の突起のことで、タマバエやタマバチ、アブラムシなどがこれをつくるが、菌もつくるそうで、菌類によるこぶ状突起の菌?、細菌によるクラウンゴールなどもあり、すべてまとめて虫こぶという場合も多い。虫えいにはタンニンが多く含まれて染料や医薬品、食物として利用されているという。例えば、皮革のなめし剤やお歯黒の材料として用いられたそうだ。現在日本で確認されている虫えいは1,400種以上もあり、一番多いのはタマバエの仲間で全体の40パーセント以上を占め占めるそうだ。タマバエは種類ごとに決まった植物に虫えいを作るので、虫えいだげでタマバエの名前も分かるということになる。同じように、植物の種類と部位、虫の種類、虫こぶの形、の関係が一定しているので、虫こぶを見ただけで、植物の種類がわかり、植物を見ただけで、虫の種類がわかるということになる。我が家のサクランボの場合は、えい形成生物はミザクラコブアブラムシと呼ばれるもので、サクラの芽の基部で越冬し3月下旬に孵化し新葉に寄生してえいを形成するそうだ。5月下旬には2次寄生としてキクの根に移住するという。虫えいの名前の付け方にはルールがあって、植物名+虫えいの出来る場所+虫えいの形+フシ、が一般的だそうだ。例えばコナラの芽についたリンゴのような虫えいはコナラ+メ+リンゴ+フシで、コナラメリンゴフシというわけだ。ただし出来る場所が省略されることもあるとのことだ。したがってこの虫えいは、ミザクラ(サクランボのこと)ハベリフクロフシと呼ばれることになる。 それにしても、一々自然の脅威と奥深さに感心するファーマータナカであった。野菜も大変だが、果樹の栽培における病害虫との戦いは激戦で、難しいと聞く。可憐な花と少しばかりの実をつけてはいるが、これから遭遇するであろう幾多の試練を思うと、何とか収穫できるようになることを祈る次第だ。参考までに、農薬を使用しない場合の減収率の表を掲げておくので参考にされたい。