羅刹 -143-
「しかし、あの小八条第の周りでは、若い女が姿を消すという事件が度々起こっていると聞いております」「ふん、若い女といっても、その辺りの庶民の娘や傀儡(くぐつ)、遊女の類(たぐ)いだろう」「はい」「もちろん、私もそれは知っている。道雅の家人が時折、身寄りのない遊女を呼んだり、貧乏人の小娘をかどわかして来たりしているのだ」「それを知っていながら、どうしてお止めしないのですか」「小八条第の中に閉じ込めたのは良いが、道雅はそのまま放っておくと次第に荒れ狂って手におえなくなる。女なしではいられぬ男なのだよ。だから、時々巷の身分の低い女を屋敷に引き込んで、乱暴し弄(もてあそ)んだ挙句に殺して、その肉を喰っていることは黙認してきた」「でも、何の罪もない女たちが殺されているのですよ!」 能季は驚いて、思わず非難の声を上げた。 兵藤太から聞いた、未だに行方不明の妹を諦めきれず、家業も全て捨てて妹の帰りを待ち続けている兄の話を思い出す。 だが、頼通はその白い額を微塵(みじん)も動かすことなく平然と答えた。「たかが庶民の女が数人殺されたところで、別に大したことではなかろう。そのくらいのことで、あの道雅が大人しくしているなら容易いことだ」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m