誕生日と顔
確か、今月の20何日かが母の誕生日だった。先月の20何日かが父の誕生日だった。何回も何回も聞いても、覚えられなかった。お父さんとお母さんの誕生日も覚えられへん私は悪い子やと、ずっと自分を責めていた。父と母の顔を覚えることもできなかった。特に父の場合、街中の繁華街ですれ違ったりして父に気付けないと、「なんでオレを無視したんや」殴る蹴るの半殺しを、街中なんて構わず始めかねない。そんな事態を恐れて、街中でも緊張していた。「親の顔を覚えられないのは重度の解離です」とカウンセラーに言われた。私にとっては日常の一幕に過ぎなかったのに、カウンセラーの「重度」という声は震えて、表情は怯えきっていた。「こんな重度な解離を起こすような患者は、どんな恐ろしい体験話を始めるのだろう」そう思われてそうに感じた。ああ、もう、この人には頼れない。何があっても支えてもらえるという信頼関係を、結べないままそんなことがあり、他にもあり、その後、カウンセリング治療はやめた。父と母の誕生日を覚えられないのも、解離性健忘だったのかな。私が悪かったわけではないのかな。そうだよと、ちょっと誰かに言ってもらえれば、今更ながら安心できるんだけど。