「愛の妖精」 【ジョルジュ・サンド /宮崎嶺雄】
愛の妖精(著者:ジョルジュ・サンド/宮崎嶺雄|出版社:岩波書店・岩波文庫) これも子供の頃に読んだ記憶はあるのだが、大人になってちゃんとした翻訳で読むと、ずいぶん印象が違う。 サンドはバルザックとほぼ同時代の人だが、こちらには、退廃的なフランス人は出てこない。みんなまともである。バルザックやモーパッサンを読むと、フランス人には貞操などという観念はないのかと思ってしまうがそんなことはないようだ。 解説によれば、「温和な物語によって人心を慰める」という目的を持って書かれたと言うことだが、確かに人の心をいやす小説である。 終わりの方で、貯蓄があったことが出てくるのは蛇足のような気がするが、あるいは、自分でもずっと知らなかったが、実は裕福だった、という型の嚆矢なのかもしれない。 自分自身がこうありたい、周りのみんなにこうあって欲しい、という願いが込められた小説である。 ファデットはランドリーに「手を握らせても手首より上は握らせなかった」(p180)というのだが、手首より上を握る、というのは何か意味があるのだろうか。