「ハートブレイク・キッズ」 【小林信彦】
ハートブレイク・キッズ(著者:小林信彦|出版社:新潮文庫) 23歳のフリーライターを主人公とした小説。 全くの偶然から、高級マンションで若い男と一緒にいなくてはならなくなって……という出会いから3ヶ月間を描く。 非常に軽い書き方で、作者が顔を出して遊んでみたりしている。 途中、主人公の売り出そうという話があるところで、「あ、これは『極東セレナーデ』だ」と気づいたのだがほかの要素もあったのだ。 小森収という人が、解説を書いていて、「小林信彦の小説の様々な定跡のパッチワークみたいだ」と指摘している。まさにそうなのだ。さすがに解説を頼まれるだけのことはある。 『夢の砦』『紳士同盟』などの要素に気づかなかった。 主人公は映画評論家であり、登場人物が映画をめぐって話す場面もある。全体に映画を意識した小説で、おそらく、いろいろな映画の要素を意識して持ち込んでいるのだろう。冒頭もそうだし、偽物の麻薬捜査官かと思ったら本物だったなどというところもそう思わせる。 解説によると、これは女性雑誌「JJ」に連載されたものなのだそうだ。おお、小林信彦が「JJ」に連載を持っていたとは。 特に、主人公が、自分ではそうは思っていないけれど、回りから美人だと評価されている点など、言われてみると、女性読者を意識した書き方だ。 なお、ハートブレイクというのは失恋のことではなく、東京育ちの者の故郷喪失感というようなことのようだ。