マザーグースを口ずさむ多重人格者の物語~小説『鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE)』
みなさん、こんばんは。明日も雪が降りそうですね。寒い寒い。寒い日には家でこんな本を読むのはいかがですか?鳥の巣/シャーリイ・ジャクスン/北川依子The Bird's Nestエリザベス、エルスペス、ベッツィにベス。みんなで鳥の巣を探しに出かけた。鳥の巣の中に卵を5つ見つけてねみんな一つ、卵を取った。巣の中に残った卵が4個。Elizabeth, Elspeth, Betsy, and Bess,They all went together to seek a bird's nest;They found a bird's nest with five eggs in,They all took one, and left four in. エリザベス・リッチモンドは母を亡くして叔母と二人で暮らしている。ある日職場の博物館の土台が傾いた日、見知らぬ者からの手紙を見つける。ひらがなとかたかなばかりのその手紙にはこう書かれていた。「おまえはにげられない こうかいするぞ わたしをごまかせるとおもうな すべておみとおしだ きたないかんがえリジーきたないリジー」 後年「日時計」「ずっとお城で暮らしてる」「たたり」のように、家が人格を持つ話を描くようになるジャクスンだが、初期の本作では建物=家はまだ人間に影響を与える存在にはなっていない。但し建物の一角が傾いたことがヒロインの均衡を揺るがしていく契機となっており、全くの無縁ではない。またみんなで探す「鳥の巣」が、各人の落ち着くべき場所、安心できる場所と解釈できなくもない。 全六章から成り、第六章を除いてタイトルとなった人物(エリザベス、ライト医師、ベッツィ、モーゲン叔母)の視点で物語が進む。エリザベスを脅迫していたのは彼女の中に潜む別人格で、彼女を診察したライト医師の前に、その後も次々と新たな人格が現れる。医師は分かりやすいようにそれぞれに名前をつけるが、その中のいくつかが、先に挙げたマザーグースの歌の中に出て来る。また、ヒロインも叔母も事あるごとにマザーグースやシェイクスピアの一節を口にすることから、登場する度にそれぞれに意味があるのでは?と惑わされる。「アルジャーノンに花束を」発表前の作品(アルジャーノンは1959年、本作は1954年)であり、素材の選択眼とそれぞれのキャラクターの描き分けが素晴らしい。また、4つの人格が他人には見えない所でせめぎ合って主導権を奪おうとする様子はリアルで、なぜこのような人格分裂に至ったかという理由を少しずつ明かす過程がスリリングで面白い。これほどややこしい主人公に寄り添って、作品世界から無事抜け出すことが出来たのだろうか?と生涯を調べてみると、作者もかなり厄介な人物であったようだ。DALKEY ARCHIVE鳥の巣/シャーリイ・ジャクスン/北川依子【2500円以上送料無料】オンライン書店boox