カテゴリ:その他雑考
まあそりゃあ、法だって万能ではない。抜け穴だって発生することはさけられない。 そのせいか、たまに法の抜け穴を通すような悪どいハウツーが世の中に出回っていることがある。 だが、実際には抜け穴を通すのは簡単ではない。 民事法であれば、類推解釈や信義則違反・権利濫用などと言う形で結論をうまい方向に持っていくのは可能であるし、刑事法だってばっちり判例研究などをしないと結局処罰されましたなんてことも。 確かに、裏社会には法の抜け穴を通すような連中はいるが、彼らは下手な弁護士より頭がいいような人たちだ。素人がまねをして法の抜け穴を通そうとすると、痛い目に遭うことは、知っておいたほうがいいはずである。 法をめぐる諸相は、「行列の出来る法律相談所」みたいに単純ではない。いくつもの複雑な要因が絡まりあって、検討すべき点を形成している。この点大丈夫だから全部OKなんて、とっても甘い発想なのだ。 先日、酒酔い運転と思しき男性が、追突した途端にコンビニに駆け込んで焼酎を飲み、証拠隠滅を図ったという。後から酒酔いの反応が出たとしても、追突したあとに飲んだものだと強弁するつもりだというわけだ。 事故っただけなら業務上過失傷害罪だけ。仮に酒酔い運転が立証されると、もっと重い罪の危険運転致死傷罪が成立する可能性があるので、そこを封じれば逃げられるかもしれないということなのだろうか。 さらに、犯人が自分自身の犯罪の証拠を隠滅するのは不可罰である。証拠隠滅罪の条文には「他人の刑事事件の証拠を隠滅するのは」と書いてあり、自分の事件の証拠は隠滅しても無罪である。無罪である理由としては、裁判で自分を守る権利を保障するためとか、犯人が処罰から逃げたいばかりに自分の証拠を隠滅しないのを期待しても無理だろうという考えがあるといわれている。証拠隠滅をするなら隠滅しなければならない犯罪があるわけでその中で重く処罰すればよい、というのもあるだろう。 実は、そういうハウツーを書いてある本も見たことがある。 だが、実際そんなことをしたって得にはならない。 日本の刑事裁判の認定は厳しい、と言われるが、素人目には甘い部分もある。 呼気に事故直後に飲んだ量だけではおよそ出てくることがないアルコール数値が出てくれば、事件前の運転の酒酔いが認定されることは十分考えられる。直後に酒を飲む行為それ自体も、証拠を隠滅しようとしたということで一つの有力な状況証拠である。状況証拠だけでは無罪放免みたいなことが一部でよく言われるが、決してそんなことはない。少なくとも、他の状況とあいまって酒酔いを認定する材料になることは十分に考えられる。 また、取調べで飲みましたと自白すれば、ほぼ問題なく認定できるだろう。また、運転の前にある程度の量の酒を飲んだことを正確に証言できる誰かがいれば、認定に問題はないと思われる。 仮にそれらをうまくすり抜けて危険運転致死傷罪の適用を免れたところで、業務上過失致死傷罪の適用から逃れるのは99.9%無理である。検察としてはそんなやり方をする人間には厳しく求刑をするだろう。最高刑は懲役5年なので、悪質な証拠隠滅らしき行為をするような人間には執行猶予をつけさせないということだって可能である。 危険運転致死傷罪は使い勝手の悪い罪でなかなか成立しないし、こと初犯で被害者が軽傷ということなら、とにかく被害者を助け、おとなしく捜査に協力し、被害者に賠償して反省の態度を示すなら、危険運転致死傷罪でも執行猶予がもらえる可能性もあるのではないかと個人的には想像する。(所詮大学院生の言うことなのであてにしないでもらいたいが・・・) 他にも、法の数は極めて多いことも要注意だ。刑法に書いてない犯罪でも、他の法律で処罰すると書いてあればばっちり処罰の対象になることに注意しなければいけない。 一番有名なのは「通貨偽造」。通貨偽造とは、ニセモノ通貨を「通貨として行使する目的で」作って初めて成立する犯罪である。じゃあ飾りに使うんならいいんだ、と言うことで飾りにして歩いていたら、逮捕されてしまう。 「通貨および証券模造取締法」と言う法律があって、その法律はそっくりなものを作ることをそれだけで処罰しているのだ。通貨偽造に引っかからなくてもこっちに引っかかるのである。 結局のところ、そんな小手先の手法を使ったって検察や裁判所の目をごまかすのは並大抵のことではないし、むしろそんなことをやったがために本来つけてもらえる執行猶予がつけてもらえなくなったりする可能性は十分にある。 日本では、例え成立する罪の名前が変わったところで法定刑の幅が広い。本当に酌むべき事情のある人は救いやすい意味がある反面、本当に処罰すべき人は割と重く処罰できるようになっている。 世の中に存在する妙な法律ハウツー、あんまり当てにしないでもらいたいが、その中でも犯罪をごまかすようなハウツーは間違っても当てにしないほうが賢明である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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