源氏の君、美しく輝く梅壺女御(六条御息所の姫君)を訪れ恋心を訴える
《「源氏物語」薄雲(うすぐも)の巻》原文左上には「四望唯煙雲」《四望(しぼう)するも唯(ただ)煙雲(えんうん)のみ》という白楽天の漢詩の篆書印が押捺されている。漢詩の意味は、「あたりを眺めても靄(もや)と雲しか見えない」という意味。この漢詩は白楽天の「文集」の中の有名な一節です。(1)・自筆の「原文の読み下し文」は次の通りです。《ひんかし(東)の・・・・ゐん(院)に物する人の、そこはかとなくて、心くるしうおほ(覚)えわたり侍しも、おたしう思ひなりにて侍り。心はへのにくからぬなと、我も人もみ(見)給へあきらめて、いとこそさはやかなれ。かくた(立)ちかへ(返)りおほやけの御うしろみつかうまつるよろこひなとは、さしも心にふか(深)くし(染)ます。かやうなるすきかましきかたは、しつめかた(難)うのみ侍るを、おほろけに思ひしの(忍)ひたる御うしろ(後)み(見)とはおほ(思)しし(知)らせ給ふらむや。あはれとたにのたま(宣)はせすは、いかにかひなく侍らむ」とのたま(宣)へは、むつかしうて、御いらへもなけれは、「さりや。あな・・・・・《こゝろ(心)う》左下2つは、出雲・松江藩主・松平治郷の正室・方子・と娘の幾千姫(玉映)の落款。(2)・自筆の「原文の現代語訳文」は次の通りです。《「源氏物語」薄雲(うすぐも)の巻》《源氏の君、美しく輝く梅壺女御(六条御息所の姫君)を訪れ恋心を訴える》《(源氏の君)「ひところ、生きる瀬もなく落ちぶれておりましたときに、いずれはああもしよう、こうもしようと願っておりましたことが、少しずつかなえられてきております。東》・・・・・の院におります人(花散里の姫君)が、以前は頼りない暮しなのでいつも痛々しく思わずにはいられませんでしたが、今では安心のゆくようになっております。 気だてのよいところなどを、この私(源氏の君)のほうでも、また先方(花散里の姫君)でも、はっきり理解し合ってのお付合いですから、まったくさっぱりした間柄なのです。こうして京に戻って朝廷の御後見をさせていただく喜びなどは、それほどありがたいものと感じているわけではなく、このような色めいた向きのことでは、いっこう心を抑えにくい性分でございます。したがって、あなたに(梅壺女御・六条御息所の姫君)対しては並大抵ではない辛抱を重ねての御後見であることがお分りいただけましょうか。せめて、かわいそうとだけでもおっしゃっていただきたいのですが、それすらかなえられませんのなら、どんなにはりあいのないことでしょう」と君(源氏の君)がおっしゃると、女御(にょうご・梅壺女御・六条御息所の姫君)は、どうにも応じようがなく困惑して、ご返事もないので、(源氏の君)「やはりそうでございますか。ああ・・・・・《情けない」とおっしゃって、ほかのことに話を紛らわしておしまいになった。》(3)・自筆の「英訳文」は次の通りです。《A Rack of Cloud(薄雲)》《There is the lady in the east lodge, for instance:》… she has beenrescued from her poverty and is living in peace and security.Her amiable ways are well known to everyone, most certainlyto me, and I should say that in that quarter mutualunderstanding prevails.That I am back in the city and able to be of some service toHis Majesty is not, for me, a matter that calls for very loudcongratulation.I am still unable to fight back the unfortunate tendenciesof my earlier years as I would have wished.Are you aware, I wonder, that my services to you, such asthey have been, have required no little self-control?I should be very disappointed indeed if you were to leave mewith the impression that you have not guessed."英語訳文(英文)の出典:『The Tale of Genji』Edward George Seidensticker(エドワード・ジョージ・サイデンステッカー)コロンビア大学教授(2007年没)(4)・自筆の「中国語訳」は次の通りです。《薄云(薄雲)》住在院的那人,以前孤苦伶,在安居福,无所了。 人性情温和,我与互相解,密无。我回京以后,官晋爵,身帝室屏藩,但我富并不深感趣,惟有月情,始于抑制。当入之,我努力抑制的恋情而当了的保人,不知能解我此心否?如果不寄予同情,我真是枉苦心了!”梅女御得,默默不答。中国訳文の出典:『源氏物語(Yunsh wy)』豊子愷(ほうしがい)中国最初の「源氏物語」翻訳者(文化大革命で没)