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カテゴリ:犬のいる生活
イオが2才のとき、生後6ヶ月くらいのコジロウに初めて出会った。朝の散歩で以前から会うことがあって挨拶を交わすようになっていたご夫婦がコジロウを連れてやってきたのである。 1才をすぎるころ、コジロウの体格はイオを上回り始める。そして、イオの態度が一変する。出会うと、威嚇して暴力的に屈服させようとする。いわば、自分の体格を超えて立派な牡に成長していくコジロウに、それまでの序列を維持しようと躍起になっていたらしい。 会うたびにけんかを売るようでは困るので、おやつで何とかしようということになった。遠くからコジロウがやってくるのが見えると、「おはよう、おはようだよ」と言い聞かせる。できるだけ心を平静にするような声がけをして、小次郎と出会ってもできるだけ短時間で分かれるようにする。だから、ほとんどすれ違いのように通り過ぎるようにした。吠えかかるチャンスを少なくしたのだ。 しかし、それを機会にイオは新しい習慣を手に入れたのだった。コジロウとの仲が以前のように戻ってからも、コジロウと会えば「おはよう、おはようだよ」とイオに言い聞かせ、おやつをやる習慣は残ったのだが、イオはそれを「おはよう=おやつ」と理解したのである(らしい)。 同じコースを散歩する立派な白髭を蓄えたおじいさんとクッキーという犬がいた(その人の娘さんが飼い主ということだったので、クッキーのおじいさんと呼ぶことにする)。イオとほとんど同じ頃の生れで、体格もほぼ同等、微妙なライバル関係にある牝犬である。 そのクッキーがコジロウに恋をしたらしい。散歩コースでコジロウに先に出会い、しばらくしてクッキーに出会うときがあって(コジロウとクッキーは、イオとは反対回りにコースを歩いていた)、「いま、コジロウ君に会いましたよ」などと言おうものなら、クッキーがそわそわしはじめて私のおやつなどに見向きもしなくなる。そして、おじいさんを急かせてコジロウの後を追おうとするのである。「コジロウを見かけるといつもそうなって、この年で早足は大変」とおじいさんはにこにこしてはいたのだが。 でも、イオにとってクッキーは恋のライバルではなかったようだ。その頃、イオはサブちゃんという犬に夢中だったし、コジロウとはどちらかと言えば「幼なじみ」という感じのつきあいだった。クッキーの恋の行方はわからない、というより今に至るまで確かめたことはない。 コジロウが3才を過ぎた頃から、朝の散歩で出会うことが急激に少なくなった。コジロウの自宅に一番近い公園でたまたま見かけたとき、「最近はあまり遠くに出かけない」と飼い主さんがいう。テンカンのような症状が出て突然倒れるようになったということだった。時間がたてばすっかりよくなるのだが、心配なので散歩は近場を少しだけだという。 たまにしかコジロウとは会えなくなったが、病院から薬をもらっていて、何事もなく元気でいることはたまに会う様子で分かっていた。コジロウはもともと性格が穏和な犬で、ますますゆったりとした風格のある姿になっていくのだった。 平成11年の暮れ近く、コジロウの飼い主さんが一人で散歩しているのを見かけて尋ねると、コジロウは2ヶ月前に亡くなったという。病気持ちだったが、突然の死だったという。8年の生涯だった。 この詩を、イオに優しくしてくれたコジロウに。
この短歌を、コジロウの飼い主にさんに。
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Last updated
2013.04.04 08:07:28
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