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(去年からの続き)
衝立のこちらにいる浩一郎の携帯が震えた。 浩一郎はとっさに席を立って、トイレ入口の通路に身を置いた。 「もしもし」と、浩一郎。 「お父さんですか。聞こえますか。おばちゃんに代わりま~す」 「はーい、おばちゃんのノブリンで~す」友人は電話ごっこに加わった。 「あのー、もしもし」浩一郎は言葉が見つからなかった。 「うそ~、ホントにつながってる~~」友人はオモチャノ携帯を耳から離して見つめた。 「どうして、どうして、これって、オモチャでしょう~」 「そうなんだけど、時々つながるのよ」 「もしもし・・・」携帯は切れていた。 浩一郎は席に戻ったが落ち着かない。 コーヒーを飲み干し、週刊誌を閉じたが、席を立つかどうか、迷った。 「やぱり、おとうさんなんだ。どこかにいるんだね」友人は涙ぐんだ。 母親は小さく首を振った。父親が死んだ話はしないで欲しいというサインだ。 「そっか~、お父さんは忙しいんだね」 「そうなの、忙しいんだってぇ~」 浩一郎は静かに席を立った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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