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私訳・源氏物語

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June 17, 2009
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  髭黒大将は、

「私は病気のあなたに、じっと辛抱してきたのですよ。それなのにあなたは父宮の許へ帰ろうとなさる。そんなに私をお疎みなさいますな。

 幼い子供たちもいるのですし、私はあなたを一生大事にするつもりでいるというのに、女の無思慮の上に物の怪で御心が乱れるままに、私をお怨みなさる。

 いま少し我慢なさい。それにあなたを父宮が引き取ろうとなさるのも、軽率なことですよ」

 と言って、嘲るように笑います。北の方は、

「私の事を『ほけたり、ひがひがし』呆けたとか僻んでいると蔑むのは分かるとしても、父宮のことまで侮辱なさるのは心外ですわ」

 と、髭黒に背を向けられた横顔は、かわいらしいのです。

 北の方はたいそう小柄な人でしたが、平素のお患いのために痩せ衰え、長く美しかった髪も今ではごっそり抜けおちたように細く薄くなり、髪の毛に櫛をお入れになることもめったにないので、涙に濡れて絡まっていて、それはそれは憐れなお姿なのです。

  もともと美しい御顔立ちというのではありませんが、ただ父宮に似ておいででいらっしゃいますから、あでやかな明るいお顔をしていらしたのです。

  それを物の怪をお患いになりましてからは化粧もせず、身だしなみもせずやつしていらっしゃいましたので、せっかくの華やかさもどこへやら、なのでした。






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最終更新日  August 20, 2017 02:46:44 PM
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