「野球ソムリエ」　キャッチャーズ・アイ

私が懸念していた最悪のシナリオ、そのままになってしまった。
短期一発勝負の国際大会では、選手の好不調を早く見極めて
選手用兵、起用に生かさなければ足元を救われる事になる。
まさにその意味で、岩瀬投手、Ｇ,Ｇ佐藤選手が敗因となった昨日の結果は、
予選リーグでの彼らの結果を鑑みれば、かなりの確立で予想できた。
なぜ、Ｇ,Ｇ佐藤選手をスタメンで起用したのか、
なぜ先発がダルビッシュ投手でなかったのか、
なぜ、同点の８回に岩瀬投手を起用したのか、
星野代表監督に迷いはなかったのかもしれないが、
見方によっては、あまりにも悔いが残る起用だった。
金メダル獲得の為には負けられない戦いなのに、悔いが残る型での負けとなった。
あの８回の４失点が、ゲームを決定付けたのは確かだが、
既に初回から悪い流れは始まっていたと言っていい。

その初回とは、先制のチャンスでの４番新井選手の初球だ。
相手ピッチャーは、西岡選手の出塁に始まった日本の攻撃に押されていた。
１死１、３塁というチャンスでの初球、決して難しくないボールを簡単に見逃した。
これに、この北京五輪での日本の打線不振の原因が現れている。
積極的に打っていけない。
打線がつながらない、得点が少ない、原因は積極性のなさにある。
結果、相手ピッチャーのエラーで先制は出来たが、これでは勢いがつかない。

Ｇ,Ｇ佐藤選手は試合序盤から不安な守備をやってしまった。
決して軽率なプレーではなくて、大事に処理しようとしての事なのは分かる。
分かるが、あの硬さは普通ではない。
宮本主将の言葉を借りれば
『　リラックスしようとしても、絶対に緊張はするものです。
それを受け入れなければ本当の強さは出ないんです。　』
まさにそのままのプレーだったと言える。
積極的に打ちにいけない。緊張で硬くなりすぎる。
気持ちが前に出ていないから、普段のプレーが出来ず、あんな事が起こるのである。

そして、青木選手のタイムリーで２点差にしてゲームは進み、
中押し点の欲しい６回に、その青木選手のヒットで無死１塁となった。
打席は４番の新井選手でそのまま強行させたのはどうだろう。
予選リーグでの韓国戦と昨日の準決勝での韓国戦と
同じピッチャーを打ちあぐねているのを鑑みれば、送りバントだろう？
あらかじめ４番でも何でもバントをさせる時があると言っていたのだ。
ここがまさにその場面だった。
ランナーを２塁に進めることで、チームに勢いを付け、
相手にプレッシャーを掛ける。
何としても中押し点を取りに行く姿勢を見せる場面だった。
中押し点が取れないことで、ゲームはだんだん重く苦しくなっていってしまった。
７回に藤川投手で打たれ同点になった事、６回の攻撃のまずさと無縁ではない。
ピンチの後にチャンスあり、チャンスの後にピンチあり、なのである。

そして８回での岩瀬投手の投入。
明らかなベンチのミスである。妄信的と言ってもいい。
予選リーグで３敗しているうちの２敗が記録上、岩瀬投手の責任になっている。
短期一発勝負の戦いで、負けクセがついたピッチャーは起用するべきではない。
ピッチャー自身が不安になっているはずだし、相手もかさにかかってくるからだ。
星野監督とて、それが頭にあるから先頭打者がヒットで出た時に
自らマウンドまで行ったはずだ。
そして、流れを決定付けたあのホームラン。
駆け引きに岩瀬投手と矢野選手のバッテリーが負けたのだ。
それまでイ・スンヨプ選手は絶不調だった。
昨日もあそこまでは、まるで打てる雰囲気ではなかった。
だが、過去に日本はイ・スンヨプ選手には国際大会で何度も痛い目にあって来た。
日本が初めてメダルを落とした、あのシドニーでもしかり。
ＷＢＣアジアラウンド、２次リーグでもしかり。
あのホームランの１球前、イ・スンヨプ選手は
アウトコースのボールを思い切り踏み込んでファウルにした。
あんなに踏み込んで打つことは普段ならまずない。
それで矢野選手は１球インコースを見せる配球にしたのだが、これが裏目に出た。
イ・スンヨプ選手は、前のボールを踏み込んで打つ事で餌付けをしたのだ。
踏み込んでインサイドに投げさせる、それを狙って打つと。
結果は勝ち越しの２ランホームラン。
それに気を良くした韓国打線は、バットの芯で捉えた打球を次々飛ばしていく。
Ｇ,Ｇ佐藤選手の致命的な落球も、初回に自分自身が犯した拙守のイメージと
韓国打線の当たりとが重なって起きてしまった事だ。

付け加えれば、岩瀬投手の後に涌井投手を起用したベンチはおかしい。
あの状況で涌井投手を起用する事は負けを覚悟したと思わせるに充分な起用だ。
少なくとも韓国から見ればそう映る。
これ以上の失点は絶対にしない、まだまだ追いかける、という姿勢を見せるには、
上原投手を起用しなければいけないはずだ。
絶対に上原投手だったはずだ。
ダルビッシュ投手と上原投手、北京五輪でのピッチャーの柱２本。
先発、抑えのエースを使う事なく負けたの事はおかしくないか？
ダルビッシュ投手は何か本調子で投げられないような理由でもあったのか？

野球日本代表は金メダルどころか、
予選リーグ、準決勝と、韓国に２試合続けて先制しながらの逆転負け。
アテネ五輪のアジア予選以来、オールプロで戦った韓国戦の戦績はほぼ互角。
だが、０６年のＷＢＣでは予選リーグを含むと１勝２敗。
今回の北京五輪ではアジア予選こそ勝ったものの、本大会では連敗である。
この最近の結果を見れば、日本はもう野球におけるアジアの盟主とは言えない。
アジアカップなどの球団対抗の形式では勝っているが、
肝心のナショナルチームでの戦績がこの有様では盟主などと言えない。
日本と韓国とは完全に互角、いや韓国の方が勝っているとも言えなくもない。
昨日の負けでアジアにおける野球での日本の威信は地に落ちたと言ってもいい。
日本野球屈辱の日になった昨日の戦いであった。
ＷＢＣ初代王者の冠にも大きな傷がついた。
今回の北京五輪での野球日本代表の戦いぶりは日本野球界に大きな汚点を残した。
この汚点は万死に値するほどのものである。





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