「英雄」または「おれが名なしのゴンベエだっ」についてつらつら考えたこと。ついでに「キル・ビル」と「人魚伝説」について。
「おれが名なしのゴンベエだっ」、というのは、「ションベンライダー」という映画のクライマックスで、藤竜也演じる名無しのゴンベエが口にする名ゼリフです。藤竜也という役者のクオリティが、この実にあほらしいセリフが発せられる場面に集約されててカッコいいのです。タナトスにとり憑かれたかのような怪作「ションベンライダー」において、テーマを象徴する役割をおびた男の名前が名無しのゴンベエだったのです。それを思い出したのは、昨日TVで「英雄」を見たからです。私、「英雄」かなり好きなんです。DVD買ったくらいです。アクションものでありながら推理ものでもある、みたいな感じがたまらんです。復讐という名の破滅の予感について、けっこう描ききってると思うんですよ。あとはあの風変わりな様式が好きです。まず無名がウソの話をし、始皇帝がそれを見抜き、彼の推測を語る。それに対して無名が真実(と思われること)を語り、始皇帝は宿敵の中に友の姿を発見する、という話ですが、なんかはまるんですよね。。笑。「剣の道と書の道はその根本の精神が同じであるから、書を極めることは剣を極めることである」とかね。。「おそらくお前と残剣は、実際には剣をまじえていない。お前たちは心の中で闘ったのだっ」とか。。もうサイコーに妖しげな言葉の迷路って感じがするんですよ。笑。無名という男は、その言葉の迷路の中で迷い、復讐を果たすことを断念し、死を覚悟しながらも、もと来た道を静かに引き返したって気がするんです。けど、門が閉ざされているんですよね~絵空事といえばそれまでなんですが、タイトルが「英雄」なんですから、絵空事でも全然OKですからね。。笑。ある意味、昼メロ見てるみたいなぶっ飛び感覚がたまらないのです。とはいえ「ションベンライダー」と「英雄」とは、「名のない人」を要に置いていることだけが共通していて、あとは正反対と言ってもいいくらいです。復讐(仕返し)を誓った3人の中学生(永瀬正敏、河合美智子=後年のオーロラ輝子、他1名)が名無しのゴンベエというヤクザに出会い、圧倒的な暴力性にさらされながらオトナへの階段を登る話が「ションベンライダー」。復讐を誓った3人の剣豪(残剣、飛雪、他1名)が、無名という剣豪に出会い、彼の圧倒的な必殺技にすべてを託して静かに滅びてゆく姿を描くのが「英雄」でしょうか。こんなふうにこの2本はまったく似てないわけですが、あの「キル・ビル」と池田敏春監督の「人魚伝説」はすっごく似てると思うっ。70年代日本映画へのオマージュとか言いながら、実は80年代の隠れた傑作を引用してるっ。と、私はひっそり思ってます。。案外「人魚伝説」も、何かを下敷きにしてたのかも、ですが。。汗