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カテゴリ:漫画の研究
アシュラマンといえば,漫画『キン肉マン』に登場する人気超人である。
そんなアシュラマンといえば「魔界の王子」なのだが,実は「クモの化身」だということを,ご存じの方はいるだろうか。 (『キン肉マン』15巻174頁,あいつはクモの化身) たぶん,知名度は相当低いんじゃないかな・・・。 一応,最近のスマホゲーで「クモの化身アシュラマン」なんてキャラもいるようだから,知ってる人は知っているだろう。 あと,中年層くらいになるとアシュラマンのキャラソン,『阿修羅地獄』の冒頭で「リングに絡まるクモの糸♪ 争い好みの鬼の神♪」という歌詞を聴いたこともあるだろう。 ただ,作中,アシュラマンが「クモの化身」として扱われたのは,上で貼った悪魔将軍の台詞のみである。 まず,アシュラマンとキン肉マンがなぜクモの巣リングで戦うことになったのか。状況の説明をしよう。 黄金のマスク編の終盤,キン肉マンはアシュラマンと対戦することになったのだ。 試合方法としては「天気デスマッチ(ウェザー・デスマッチ)」。雨や雪と変わりやすい天候のもと試合をするという,変則デスマッチだ。 このとき,アシュラマンは風で飛んでいったキャンバスの代わりに,雨水を利用して蜘蛛の巣のようなリングを作り上げたのだ。 さて,どうしてアシュラマンがクモの化身なのか。 両者の特徴を考えたとき,第1に思いつくのは手足の数である。アシュラマンには6本の腕と2本の足で8本の手足,そしてクモも同じく8本の手足を持つ。 第2に,アシュラマンが雨水をどうやって固めたのかわからんが,蜘蛛の巣の形に固めてリングを作ったというところ。 この2点が考えられるが,逆に言えばこの2点以外に何も共通点はない。また,この後の展開でアシュラマンが「クモの化身」といえるような技を使ったということは一切ない。また,阿修羅とクモに何か関連があるという話は寡聞にして知らない。 はっきり言って,アシュラマンが「クモの化身」であるというのは「死に設定」と言っていい。 ここで僕が考える理由としては,梶原一騎の名作『タイガーマスク』である。 この漫画には,デビル=スパイダーというクモをあしらったマスクマンが登場する。彼とタイガーマスクは「くもの巣の死の試合」(スパイダー=デス・マッチ)という試合形式で戦うことになるのだ。 (『タイガーマスク』9巻,99頁,くもの巣の死の試合,スパイダー・デスマッチ) このくもの巣の死の試合,図のようなリングは高所に設置され,キャンバスの代わりにロープが編み目の目状に張り巡らされている。 こんな不安定なリングで得意のフットワークを封じられたタイガーに対し,この試合形式に慣れているデビル=スパイダーは普通に走り回り,相当有利に立ち回ることができるのだ。 (『タイガーマスク』9巻,105頁。足がからまって動けないタイガー) どうだろうか,このデビル=スパイダーの「くもの巣の死の試合」とアシュラマンの「お天気デスマッチ」,そっくりと言って良いのではなかろうか? 考えられるパターンとしては,1つに『キン肉マン』ではくもの巣デスマッチをやるわけにもいかないだろうから,少し改変して天気デスマッチを思いついたという考え方,第2のパターンは天気デスマッチが先にあり,『タイガーマスク』要素を隠し味程度に入れたという考え方。 あくまでくもの巣リングで戦い続けた『タイガーマスク』に対し,アシュラマンたちはクモの巣リングだけではなく,気候変動の結果,雪のリングや氷のリングでも戦っており,どちらかといえば第2のパターンが正解に近いかもしれない。 そのうえで,蜘蛛の手足の数が一致するという点から2人の試合は「くもの巣の死の試合」から着想から,クモの巣リングを作ってしまい,悪魔将軍がつい「クモの化身」と元ネタを口にしてしまったのではなかろうかと思われる。 こういうことだから,アシュラマンが誕生した時点で「クモの化身」という設定はなかったのだろう。設定が固まっていなかったのか,思いつきからゆで先生の筆が滑った,と見るべきだ。 なぜ誕生した時点でアシュラマンはクモの化身ではなかったと言えるのかといえば,そのファイトスタイルである。 アシュラマンのデビュー戦であるテリーマンとの試合を見ても,アシュラマンは竜巻地獄だとか,6本の腕を活用したアシュラバスターやファイトをしており,クモの話は一切していない。 特に,腕が6本から繰り出す技はアシュラバスターに限定しなくても,2本の腕でネックハンギングを決めつつ,もう2本の腕でベアハッグを決めたり,単純に6本の腕で張り手をするだけでテリーマンは追い込まれていた。 なお,アシュラマンは「わたしは本来自分の腕を持たない超人」と意味の分らんことを言ったりはした。 アシュラバスターという必殺技はあれど,あくまで正攻法のレスリングを中心として戦ったテリー戦と,天気デスマッチというギミックに頼って戦ったキン肉マン戦はファイトスタイルがずいぶん違うのだ。 恐らく,テリー戦が名試合としてあげられることがあるのに,キン肉マン戦がほぼ言及されないのは,ギミック頼りの試合がいまいち盛り上がらないからだろう。 (『キン肉マン』14巻162頁,7人の悪魔超人から奪う前はどうしてたんですかね・・・) なお,「死に設定」と前述したとおり,アシュラマンが「クモの化身」として戦うのはここだけである。 だいたい,アシュラマンがクモの化身である必要は全くない。 彼には三面六臂という身体的な特徴があり,また仏教の阿修羅をモデルにしているのだから,そういった個性を発揮していけば良いのである。 さらに「クモの化身」などという設定を入れるのはやり過ぎであるし,混ぜればいいというものではない。 実際,アシュラマンは「夢の超人タッグ編」で唐突に魔界の王子だったという設定が追加され,以後はこちらが本流となる。 逆に言えば,超人タッグ編より前のアシュラマンにはそんな素振りはない。 アシュラマンがクモの化身だった,というのは一瞬のゆらぎと見るべきだろう。ただし,今連載中のキン肉マンは古い設定を拾ってくることもあるので,もしかしたらとは思うのだが。 なお,アシュラマンと違ってデビル=スパイダーが登場するのは1回こっきり。 彼とタイガーの試合が収録されている9巻だけでも,読める人は読んでおいて欲しいのだ。 タイガーマスク(9)【電子書籍】[ 梶原一騎 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.11.19 14:47:51
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