テーマ:毎日、一歩一歩。(2526)
カテゴリ:イーネ・イーネの一歩一歩
「ゆみちゃんフィットチーネ食べますか?」「食べます食べます♪」 思いがけなく嬉しかった。 あの日、もしまかないパスタを食べていたら・・・ という話を最後のお客様にしたよね。 客席にいる人に、お酒を注いでる間に捨てられてしまったパスタ。 お客様より、まかないパスタ、を選んでいたら・・・ 今頃はまだ、いーねさんとこのゆみちゃんだった。 あの日、ゆみが選択できなかったパスタは、バターの香りがいっぱいの きのこのパスタだった。 「松葉の重み。」は今はまだわからない。 明太子のフィットチーネ。夜中になって、マスターもカウンターに座れる仲間になる時に みんなが楽しみにしていたメニューだった。 おいしそうに平らげるHOIさんの顔が浮かんだ。 ここのところ、マスターの顔も見ないで過ごしていた。 昼間イーネ・イーネに居ても、目も合わせてなかったかも知れない。 五時になったら、出て行かなくちゃいけないから、 そのときが辛くないように、心を向けるのを避けていた。 外で黒板の写真を撮っていたらいつもどおり備屋のお兄ちゃんも出てきた。 「実は私、今日までなの。」 言ったのが初めてだったので、すごく驚いていた。 なぜという話は簡単にした。 「じゃあ今度はうちのお客さんになれるね。」とお兄ちゃんが言ったのは、 恵比寿の住人だと思ってるからだね。 「うん。」と答えた。そう、きっとまだ恵比寿には来るからね。 ここはいつの間にか第二のゆみの故郷だから。 電気の着いた店内を、赤いドアの外から眺める。 うん。なんか可愛いお店だね。 きっとこれでいい。すべての撤退はしなくていい。 「 ゆみちゃんはこの店のコーディネーターです。」とまだ言ってくれるのなら、 イーネ・イーネは、親しみやすく、女性にも入りやすい、こんな感じのお店がいい。 ディスプレイは新しくした。 ゆみちゃんワールド、は、持ち帰り。 テディベア君は撤退。ベア系イラストも撤退。 「私の趣味だと思われると恥ずかしい。」とマスター。 そうだね。 ぶどうやワインをモチーフにしたものを飾りなおしてきた。 これから徐々にそんな作品を描いていこう。 「すべて持ち帰って、鍵を返してください!!」 と言い渡され、「わかりました!」と言った日。 カントリーな棚もすべて排除し、真っさらの壁だけの箱が残ることを想像した。 それでいいと言うならそうしよう。。。 だけど二人ともお店を愛しているから、そんなことは出来なかった。 今までどおり、コーディネートはゆみちゃん。 欲しいと言う方が居たら、販売してもいいけど、マスターはいっさい管理しない。 だから小物は撤退。 小袋を渡すことさえできないと言うから、仕方ない。 それでも一見代わらないコーナーを作ってきた。 むしろすっきりしていい。 壁のリースは新しく搬入した。何も無い壁にはしたくなかったから。 話し合いはちゃんとできた。将来について。 ゆみの未来と、イーネ・イーネの未来が、またいつかどこかで、 マスターにも嬉しい形で融合するように。 そのときにはもう、ゆみはいーねさんとこのゆみちゃんじゃない。 ワインを注いで、お料理を運ぶゆみちゃんはやっぱりもういない。 ゆみの新しい就職は、 「あなたは、イーネ・イーネから、離れてはいけません、 あの方から学ぶことが、まだまだあるはずです。 私にはあれほどのことはしてあげられないから。 恵比寿を離れないでいなさい。」 という、女社長さんの言葉によって、保留状態になっています。 今それを踏まえて、ゆみの行く末は考えていきます。一歩一歩。 10時までワインを楽しむ二組のお客様が残っていて、 ゆみは、7冊のメニューブックを点検し、 カモミールブレンドと、ローズヒップブレンドを作って、 「お奨めワイン」を飲ませてもらった。 ワインが美味しい。 ここにゆみの2年8ヶ月の一番の「軌跡」がある。 じっくり語るのはいつかまたにしよう。 お客様が帰られて、おトイレの点検に行く。 ここのお花も届けよう。なるべくきれいなままであるように。 廊下へのドアを閉めて、 イーネ・イーネのメイン、個室コーナーを覗く。 ここから何もかもが始まった。 ここで何もかもが終わった、と思ったことがあった。 ここで私は迎え入れられ、 ここに持ってるものを投げつけて出て行く決心をした。。。はずだった。 ここで大切な人と過ごした。 一晩中話の尽きないような語らいもここで行われた。 今逢いたい人たちには、みんなここでの思い出がある。 ここは不思議な場所だ。 良くも悪くも、人を素にする魔法がかかる。。。 「ゆみちゃん、もう行くよ。。。」 あ、思い出に浸っているのを気づかれた。 「はーい。今行きます。」 また来るのだから。。。 絵付け教室の日はゆみがドアを開けるのだから。 鍵は返さないことになったのだから。。。 外のシャッターが降りる前に、もうマスターはエンジンをかけていた。 完全に降りるまでをゆみは確認したかった。 ふいに、ユーミ・ユーミの日々が浮かんだ。 一緒に、「よしOK!」と確認してくれた360日くんの顔が浮かんだ。 みんなきっとまた逢える。。。 車は静かに走り出す。 丸一日働いて、久々長い時間一緒にいたから、 さすがに朝ほどの勢いでは話さないけれど、 程ほどに尽きない話をしていた。 車がオレンジのトンネルに入った。 とたんにゆみの中に、旅の思い出が沸き起こり、しばし黙ってしまった。 こんなオレンジのトンネルをいくつも越えて、マスターの青春の思い出の土地に 車を走らせた日。。。 あの日の夜中も雨だった。 キラキラに輝くオレンジの光の中で、旅の空気に思いを馳せていた。 「ゆみちゃん、ガラスが無いみたいにきれいだね。。。」とふいに声をかけられた。 同じことを思い返していたのだろうか。。。 「そうですね。このオレンジの光って、何でもきれいに見える気がしますね。」 と答えた。 そう、すべての思い出の、きれいな部分だけ、自分の中に残っていくように思えた。 こんなのって、最高の、最後の日、だと思った。 「思い出はずっとたってから語り合いましょう。しばらくは・・・・」 前だけを見よう、と言うことなのでしょう。 それは、決断が、後戻りできないものだとわかったとき、 最初に言われた言葉だった。 家に着いて、「夜逃げみたい。」な山ほどの荷物を降ろした。 握手の手は、ゆみから出した。 いつもながらの厚みのある手だった。 「さようならってわけじゃないからね。」 だから挨拶はしないよ、 と言う意味で言った。 「そうですね。。。ありがとう。」 そこにもきっと深い意味があった。 雨の中、車を見送って、「あー、やり遂げたー。」と思った。 泣くような気持ちではもちろん無いし、空しくもなかった。 むしろすがすがしかった。 相手もそうだったと思う。 車の中で涙を流していた?なんてことは無くって、 きっとすがすがしい帰り道だったと思う。 だって、笑顔で終わったんだから。 上出来&完璧の二人でいられたと思う。。。 さっき、電話で声を聞いたよ。 今日になってもゆみが落ち込むことなくハッピーで居られるのと同じように、 相手もとても、すがすがしい声を出していたよ。 「ありがとう、ちゃんと帰れたよ。」と言われたから、 「良かった、昨日楽しかったよ。」と注げたよ。 これでよかったです。 出逢いの意味も、一緒に仕事をした意味も、今はまだわからなくていい。 いつか本当に、辛かった思い出までも浄化される日が来たら、 あの席で語り明かそう。。。 そんな大人の二人になれるまでは まだ程遠く。。。。 これからいっぱい試練がありそうなそれぞれです。 歩き出すそれぞれをどうかこれからも、見守っていてくださいませ。。。。 人気blogランキングへ みんなのプロフィールSP お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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