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長野県千曲市と東筑摩郡築北村にまたがるところに、1,252メートルの< 姥捨山 > という名の山があります。
体が弱り働けなくなった60歳以上の老人を山に捨てるという、< 棄老伝説 >なる ものが日本各地にあります。姥をこの山に捨てた男が名月を見て後悔し、翌日戻って 母を連れ戻ったとする
わが心 なぐさめかねつ 更科や おば捨山に 照る月を見て
古今和歌集に詠われた伝説に、山の名前の由来があるそうです。
遺棄伝説というのは、食糧事情が悪く貧しかった日本は、口減らしの為に老人を山に 捨てるというお話。 その中で有名なものといえば、国の御触れに従い老いた母を背負って、泣き泣き姥捨て 山へ向かう孝行息子。途中でポキポキと音がします。母を捨てて帰ろうとすると、息子が 帰り道迷わぬように、小枝を道すがら母は折ってきたと。ポキポキは、枝を折った音だっ たのでした。己は母を捨てようとしているのに、自分のことを考えてくれる母親の親心に 彼は改心し、また連れ戻って家の床下に母を隠します。
その国は隣国から難題をふっかけられており、これが解けなければ攻略すると。 次々と難問がふっかけられますが、母親が息子を通してその謎を解いたのでした。 殿さまが彼に褒美をつかわそうとした際、姥捨て山に捨てきれず連れて帰ってきた 老いた母が、謎をすべて解いたと告白。 年寄りの知恵に感心した殿さまは、それ以後姥捨ての御触れを取りやめ、老人を 大切にするようなったという言い伝えです。
この民間で伝承されている< 棄老伝説 >を題材にして書かれた小説が、1957年に 出版された深沢七郎の< 楢山節考 >。本小説では、60歳ではなくて70歳になると 楢山まいりとして、老人は捨てられてしまいます。おいた母、おりんを楢山に捨てて 戻るという衝撃的なストーリーが、当時物議をかもしだしました。 年老いた母は連れ戻されませんが、残された母の持ち物で家族が生き延びている姿に、 主人公は悲しみの中で母の慈愛に感謝するというもの。
2013年6月の高齢化白書によると、65歳以上が総人口の 24.1%を占め、超高齢化 社会へと日本は進んでいます。 皇子の母も介護施設に入ってもらいました。超高齢化社会に向けて、親を介護施設に 入れることは、ある意味で楢山まいりに通じるものがあるかもしれません。棄老伝説 とは< 老いと死 >という、人間の根本的な問題に迫る命題を、我々に突き付けて いるのではないでしょうか?!
先の見える限られた人生であれば、己が生きることよりも残された子供や孫たちの 幸せの為に、自分がなにができるのか?を考える。遺老伝説の母たちは、自分が消え 去ることによって、残された家族が生き延びることを望み、きっと悲しみの中でも 家族のために役にたてたという、喜びを感じていたのに違いありません。これこそが、 仏にも似た母の < 慈愛 >だと思うのです。
終の棲家となる介護施設が単なる姥捨山にならぬよう、誰かのために役にたちたいと 思う母であって欲しいと、心より願うものでありまする。
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