カテゴリ:国際政治
トランプの自滅 その3
2020年という年は、トランプにとって最悪の年になりました。彼の危機管理能力の欠如という、大統領としては致命的な欠陥を、大きく浮かび上がらせる出来事が、二つも発生したからです。 一つは秋になっても一向に収束の気配を見せないコロナ危機で、もう一つが5月に起きた、無抵抗な黒人青年ジョージ・フロイド氏が、白人警官による暴行死事件をきっかけに、全米に大きな広がりを見せた Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)運動に対する、洒落にならない対応です。もう一つはコロナ危機に対する対応能力のお粗末さと、危機を拡げるだけの本人の対応です。 前者の黒人並びに非白人に対する差別に反対する運動に対する、トランプの無理解は、あまりにひどく、ひたすら白人至上主義者や、極右勢力を持ち上げ、米国の分断を強く推し進める効果を発揮しました。 特に6月1日、ホワイトハウス前で行われた平和的なデモに対し、大統領がホワイトハウス前の教会まで徒歩で出かけ、演説するパフォーマンスを演じるのに邪魔だからと、軍を動員して強制的に排除し、そのあと無人となったホワイトハウス前を、大統領がエスパー国防長官とミリー統合参謀本部議長を引き連れて 歩き、教会前で演説し、記念撮影するという暴挙を犯したことです。 米国の大統領は、軍の最高司令官を兼ねます。その司令官が、平和的なデモを行っていた普通のアメリカ国民を、軍の力を使って排除させたtのです。これは軍が国民に銃を向けたことに外なりません。これは大事件でした。 軍内部から、強烈な不満と批判が噴出しました。3日、前国防長官のジェームス・マティス氏が、かつての上司だったトランプを、強烈に批判する大演説をぶちました。 方針に反対でも、現役の武官が公然と大統領を批判する演説はしにくかろうと、退役した元上司が、大統領批判を肩代わりしたわけです。 マティス氏はこう述べました。まず、「法の下の平等という正義は、デモ参加者が要求していたものであり、抗議に参加した意識ある人々が求めていたのは、この我々の価値、我が国の基本的な価値にしたって生きることである。」と述べ、少数の暴徒が略奪行為を働いたことを理由に、デモに参加した数千の人々の米国民を「テロリスト」と断じたトランプの間違いを指摘した。 その上で、マティス氏は、「私が50年前に軍隊に入隊した時、私は合衆国憲法を守ることを誓った。同じように宣誓した兵士たちが、どんな状況であろうと、憲法で保障された市民の権利を侵害する命令を受かるなど、夢にも思わなかった。」と述べ、トランプの命令は、憲法に保障された国民の権利の侵害だったことを指摘したのです。 「我々は、我々の都市が『戦闘空間』であり、征服軍人達が制圧するために召集されるなどという考えを断固拒否しなければならない」と述べ、トランプの命令を受けたとはいえ、兵士に対し「戦闘空間を制圧せよ」という言葉を使ったエスパー長官をも厳しく非難したのです。 マティス氏は、メディアに出演して評論家のようにベラベラしゃべるような退役軍人ではありません。トランプとの意見の相違から国防長官を辞した後、後任のエスパー長官の仕事を妨げないよう、現役軍人に配慮して、政権批判めいたことは一言も発していなかったのです。 そのマティス氏の、真正面からのトランプ批判でした。彼は続けます。「自国において、我々は極めて限定された機会に、州知事からの要請があった場合にのみ、我が国の軍隊を用いるべきである。ワシントンDCで目撃したような軍事的対応は、軍隊と市民社会との間に誤った紛争を作り上げてしまう。会そうなってしまえば、征服軍人たちと彼らが守るべき社会との信頼の絆によって保証された道徳的な基盤が損なわれてしまう・・」 「公共秩序の維持は、各州の文民指導者たちに委ねるべきである。彼らがそれぞれのコミュニティについて、最もよく理解しているからである。」 「抗議デモに対する対応を軍事化する必要などない。我々は共通の目的のために団結する必要がある。そのために法の下で我々すべてが平等であることが保障されているのだ。」 「ノルマンディ上陸作戦の前に、我々兵士たちに軍の上層部から与えられたメッセージは、ナチスのわれわれを破壊するためのスローガンが”分断と征服”であることを、思い出させた。これに対する我々米国の答えは、”力は団結にあり”だった。 「ドナルド・トランプは、私の生涯で米国民を団結させようとしない、そのふりさえしない初めての大統領である。その代わりに彼は、我々を分断させようとしている。我々が目撃しているのは、3年間に及ぶ意図的な分団の試みの結果である。我々はトランプ大統領なしで団結することが出来る。」 マティス氏は、トランプの「分断」の手法をナチスの手法と重ね合わせて、その脅威に対して団結せよとのメッセージを、発したのです。 そして「我々は、合衆国憲法を嘲る政権を拒絶し、彼らに責任を取らせるべきである。」こう述べて、彼は、大統領選挙を控える全ての軍人と、合衆国国民に対して、トランプ再選を拒否して、新しい道の選択を呼び掛けたのです。 このマティス氏のトランプ批判に続いて、次々に軍OBが立ち、入れ替わり立ち代わりに、トランプ批判とマティス氏支持を打ち出しました。まさに退役軍幹部のスターたちが、総出でトランプ批判を綴ったのです。 それはまさに、自分たちは現役だけに言いにくい現幹部に替わって、言いにくいことを言ってあげようという態度に見えました。果たせるかな、非公式に現役たちからも突き上げられたのでしょう。エスパー長官とムリー統合参謀本部議長が、揃ってトランプに随行した自らの誤りを悟り、今後はトランプと行動を共にしないと誓い、トランプによる国内での軍動員命令を、認めない姿勢をしめしたのです。 要は、退役軍人まで含む、広い軍幹部のコミュニティが一致してトランプを支持しないことを表明したのです。幹部の動向は、幹部に従う下士官たちを通じて一般兵士にまで及びます。 黒人のデモに対して、強い態度を見せようとして、安易に正規軍の動員を命じたことで、トランプは、国民の支持ある行動を心がけてきた軍コミュニティの支持を完全に失ってしまったのです。この時点で、私はトランプに2期目はないと、考えるようになりました。ただまだどのくらいの差がつくかは、見えていませんでした。 ここにコロナ対応の失策続きが加わります。 明日に続きます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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