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HANNAのファンタジー気分

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April 10, 2007
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テーマ:本日の1冊(3684)

 荻原規子のエッセイ『ファンタジーのDNA』「十二国記」(小野不由美)のことが書かれてあったので、1巻目『月の影 影の海』を再読しました。
 実をいうとこれと『風の海 迷宮の岸』しか読んだことないんです、私。アニメも観ていないし。
 いえ、面白くないわけではないんです。単に私が、漢字が苦手・・・つまり、難しい漢字の名前や地名を覚えられないという、致命的な弱点があるのです。
 『月の影…』でも、最初、ヒロインの陽子がわけもわからず中国風異世界に連れて行かれて、聞かされる名が「タイホ」「ケイキ」「ヒンマン」とカタカナになっていた時は、まったく大丈夫だったんですが、これを「台輔」「景麒」「賓満」とやられると、画数の多い漢字で頭の中がもつれてしまって、イメージが全然湧いてこなくなってしまいました。普通、漢字の方が、文字として意味を持つから、イメージが湧きそうなものなのに、私の場合ダメなんですねえ。難しい漢字って、スカスカのカタカナと比べると、見ただけでずっしり重そうだし。

 物語の方も、若者向けのふわふわ楽しいファンタジー、と思ったら大間違いで、思春期にありがちな悩みと孤独を真っ向からとりあげた、かなりヘヴィーな設定でした。
 ごく普通の高校生である陽子が、学校でも家庭でもいわゆる大人しい優等生を演じるストレスと、大人になって自己を確立するまでに乗り越えなければならない不安・孤独・恐怖などが、日常の日々の間に積み重なって、ある日ある時うわーっと臨界点を越えて、その行き場のないエネルギーが時空をゆがめて、いきなり彼女の前に異世界の住人(というか幻獣)ケイキを出現させたのだ、というふうに、私には読めました。

 そうして、異世界に独り放り出された彼女の旅は、現実という装いにくるまれていた彼女の不安・孤独・恐怖がむきだしになって、生々しい痛みや苦しみとともに襲ってくる、そんな中をやっとのことで進んでいくような旅でした。これはかなり、つらい。
 つらくてくじけていると、「蒼猿」が出てきて、これもむきだしのホンネで彼女の心をえぐるのです。いや、正直言って、挿し絵の可愛らしい陽子さんのイメージとはかなり遠い、もっとドロドロベタベタの感じがします。

 思春期の女の子の中身は、外見とはうらはらに、たぶんこんなにも壮絶なサバイバルなのでしょう。私も大昔、高校生でしたが、あのころは、自分っていったい何よ? 人生っていったい何よ? みたいな、悩みというよりやり場のない叫びみたいなモノが、心の中に満ちあふれていたように思います。

  ・・・思春期の少女の心・・・彼女たちは・・・人間(大人たち)とは、言葉が通じないと感じることが多い。ともかく、お互いに「異種」の存在であると感じる。・・・自分はこの家の本来の家族ではない、どこかから貰われてきたのだなどと思う思春期の子どもは多い。強烈な「異種」感覚が、いろいろな作用を起こすのである。  ――河合隼雄『猫だましい』

 これはよく引用します河合隼雄ですが、まさにこの「強烈な異種感覚」が「十二国記」の陽子にはあって、そして同じ年代の読者にもきっとあるのでしょう(私にも、昔ありました)。
 
  マリスという女の子は、パパやママとはちがう。パパやママが思っているような子ではない。パパやママがあたしのことをこういうふうに思ってるだろうとあたしが思う、そのマリスともちがうし、そのほかの何でもありません。それだけはたしかなの。 ――シーラ・ムーン『ふしぎな虫たちの国』

 そんなふうに、“ほかのだれでもない、異種の私”を自覚して、悩んだり苦しんだり寂しかったりしたあげく、“ほかのだれでもない私は、かけがえのない私”と自分を認めて、しっかりと立ち上がって前を見た時、人は自立して大人になるのでしょう。
 これは言うのは簡単ですが、実際にこの境地に達するには、陽子のように、異界に放り出されて長く苦しい旅をしたり、現実(今まで)の自分を見つめ直したり、なかなか大変な経験を経ないといけないようです。

 そうして自分というものを自分が認めたとき・・・、陽子は異世界で王となります。結末は最初から分かっているのだけれど、いや、感動の結末です。





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Last updated  April 10, 2007 10:49:05 PM
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