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テーマ:本日の1冊(3685)
カテゴリ:かるいノリで古典を
前々回にアイルランドの『小人たちの黄金』を再読しましたが、小人がお宝をためておく黄金の壺というアイテムは、ヨーロッパ共通のものらしく、ドイツ・ロマン派のE・T・A・ホフマンにもずばり『黄金の壺』というタイトルの幻想物語があります(絶版です)。
以前ホフマンの『ブランビラ王女』の日記では書き漏らしましたが、この人、「くるみ割り人形」(チャイコフスキーのバレエ)の原作者でもあるんですね。 200年近く昔の作品ですから、文章は(訳文で読んでも)古風でまわりくどいところもあります。しかし気にせず進んでいくと、実は少女漫画かライトノベルにもできそうなキャラクターが、甘くてちょっとコミカルなストーリーを展開しています。 主人公は、何をやってもドジってしまう貧乏学生アンゼルムス。素直でまじめだけど夢見がち、周囲からういている。物語冒頭でも、お祭の日に屋台につっこんで、積んであったりんごをばらまいてしまい、店のお婆さんにさんざんののしられています。 ところがそのすぐ後に、川のほとりで彼は不思議な体験をするのです。緑色にきらきら光る小さな蛇がクリスタルの鈴の音のような声で愛をささやく・・・何だか唐突な気もしますけど、これが彼の運命の出会いなんです。 あとで分かりますが、蛇は美しい乙女の化身で、名前はゼルペンティーナ。なんとハーレクイン小説的に魅力的な名前でしょう。主人公アンゼルムスは世俗的にはうだつがあがらないけれど、純粋無垢な性格ゆえに、彼女に選ばれたのです。 しかし、世間の人はそんなアンゼルムスを精神的に病気なのだと思い、馬鹿にしたり警戒したりします。クリスタルの鈴~などと口走る彼の、就職を心配した教頭先生が、古文書の筆写の仕事を紹介してくれ、彼は王室文書管理役リントホルスト氏の家を訪ねます。 最初は、玄関のノッカーに魔女(祭の日のりんご売り)の顔が現れて呪いの言葉を吐くので、アンゼルムスはぶっ倒れ、あわや失職するところでした。 (余談ですが、ディケンズの『クリスマス・キャロル』にも、亡霊の顔がドア・ノッカーに現れますが、欧米ではノッカーはそういうアイテムなのでしょうか?) ようやく回復して仕事場を再訪すると、そこは奇妙な屋敷で、熱帯植物園のような庭や風変わりな家具があり、オウムが話しかけてきたりします。リントホルスト自身も突然ファンタジーな服装になったり指先から炎を出したり、ただ者ではありません。 実はリントホルストこそ、蛇乙女ゼルペンティーナのお父さんなのでした。しかも彼は実は実は“火の精”で、アトランティス王国の廷臣だったのが、百合の花から生まれた緑蛇と禁断の恋をしたために罰せられ、人界に落とされて人間の暮らしにあまんじなければならないというのです。しかし、 人類が堕落してしまって、自然のことばが通じなくなり・・・(中略)・・・そんな不幸な時代がおとずれたら、火の精の火は、また燃えあがるのだ。 ―――ホフマン『黄金の壺』神品芳夫訳 というアトランティス王の予言があり、まるで、来るべき大いなる時まで眠り続けるアーサー王や英雄たちのように、火の精リントホルストも本性を眠らせたまま、ドイツの片隅で文書管理役などをやっているというわけです。 リントホルストにはゼルペンティーナを含めて三人の娘(お母さんが蛇ですから、娘もみんな蛇)がおり、それぞれに純粋無垢な夢見る人間のお婿さんが見つかれば、アトランティスの楽園に帰れるんだそうです。 時空を越えたロマンですねえ。・・・でも何だかおとぎ話にしてはご都合主義っぽい理屈ですが、まあとにかく、アンゼルムスは栄えあるお婿さん第1号に選ばれたということです。 その後、教頭先生の娘との世俗的な恋に目がくらんだアンゼルムスが瓶にとじこめられるという波乱がありますが、これも恋愛ものとしてはお定まりのライバル出現!てな感じで。 結局、娘は別の男と婚約し、敵対勢力の魔女も打ち負かされ、アンゼルムスはゼルペンティーナと結ばれて、めでたくアトランティスに行ってしまいます。 この時、二人の永遠の愛のあかしとして示されるのが、昔アトランティスの地霊が予言成就の助けにとリントホルストに贈った「黄金の壺」。タイトルになっている割には、この壺がストーリーに何か影響を及ぼすことはありません。ただ現世を超越した世界のすばらしさ・完璧さを象徴しているだけかも? ともあれ、現実界ではドジでだめ男のアンゼルムスは、愛ゆえに現世を解脱してアトランティスの詩人になりました。お婿さんが3人揃ったら火の精復活で何か現実界へも新たなアプローチがあるのかもしれませんが、その時まで、彼は蛇姫と黄金の壺とともにアトランティスに行ったきり、現世には戻ってきません・・・ それでホントにいいのかアンゼルムス? とつっこみたくなる気もしますが、多分これで十分なんでしょうね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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