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テーマ:読書(8217)
カテゴリ:本日読了
2024/03/05/火曜日/日差しのない日
〈DATA〉 出版社 新潮社 著者 平山周吉 2023年3月30日 発行 〈私的読書メーター〉〈映画は何度目かのリバイバルブームで代表作を幾つか観たが、まとまった小津安二郎本は初めて。一番心惹かれたのが本居宣長との繋がりで、この章が後半にもっと深められることを期待したがそれは得られなかった。著者のいう近代日本人の最高の姿が小津監督にあるなら本居宣長との霊脈である松坂時代が重要ではないかと素人考えを抱く。「敗北を抱きしめて」の如くの一見平凡な、それでいて絶対的小津芸術の凄みに死者の眼差しがある事には深く突かれた。日本領シンガポールで米映画を2年以上観られた境遇を天与された20世紀人の心棒貫く人生だ。〉 おやまあ、こんなことしちゃった。 『小津安二郎』読書最中に、ひょいと娘と婿殿と鎌倉散歩に行くことになって。 あー、あるね。ダイヤ菊。蓼科の山荘にもちゃんといつ帰ってもいいように置いてあったねえ、 娘は覚えていた。何年か前に一緒にそこを訪ねた。 そうか、著者はこの墓碑銘の無の字に違和感があるのだねえ。小津の生涯をくくる文字に、小津自身がこれを選んだのでない経緯も記されている。 小津の映画の魅力の背後には矢張り人として魅力的な小津さんがいるんだろう。表現するものは全てその人そのものの写しなのだから。 この墓には小津安二郎のお母さまも一緒に眠る。小津は母思いで知られ、最後まで共に暮らした。 ばばぁ、ばあさん呼ばわりしていたのは照れ隠し以外の何物でもない。 先の敗戦では小津も年長ながら応召され、支那事変の辛酸を舐め、弟とも思う山中貞雄をその間に戦病死で亡くした。 当時若い兵士たちは天皇陛下万歳を唱え死ぬことを教えられたそうだが、殆どはお母さん、おっかさん、母ちゃん、おっかあと叫んで散ったのだ。 この本を読んでいると沢山の山中貞雄たちの母恋の声が、小津の母思いにまで連なっているように感じられる。 小津の軍隊階級は下士官だったけれど、そのような部下たちへの鎮魂として、安心せよ我が母なれど貴様らの母とも思い死ぬまで孝行を尽くす、と決めていたかのようにさえ感じられる。 そうして独身を通した。 焦土日本には社会的寡婦と戦争未亡人百万人 そんな小津の情をアングルやカット、カメラアイや役者の表情、会話に先験的に感知する者は我が意を芸術にまで高めた小津に平伏するしかない。 何だか能の世界である。戯作者小津は浮かばれぬ魂に慰めを与える僧侶のようでもあり。 でもそれだけではない。何というか、そんな理屈を排してほのぼのとした朗らかな一つの、純な日本人の好さ、そんな味わいを笠智衆や東山千栄子に凝縮させた才覚、それが好ましい。 意外な印象を持ったが、小津は志賀直哉を大変尊敬した。これもまた私自身が志賀直哉に対する貧相な経験しか持ち合わせない所以か。 小津が書き留めた志賀直哉の言葉に 独立した芸術には向こうからこちらへ来るものがある。趣味の世界のものはこちらから愛撫するスキがある。それはまた非常に強い魅力だ。だからどうかすると騙される。しかしどんな魅力があっても独立した芸術と一緒には考えられない。 がある。 これは柳宗悦とも関わった志賀直哉の、というより民藝運動を経た美意識ではないだろうか、 とも思う。 小津は志賀を大先生、里見弴を小先生と尊敬し、彼らは旅を共にする事や座談もした。そんな繋がりゆえか、小津は映画界で初めて芸術院に選出された。 ところで、この読書から、小林秀雄『本居宣長』を読みたくなった。里見弴に至っては一冊も読んでいない。読書は次の読書を呼ぶ。 宣長の言語論、和歌論、文学論。 姿ハ似セガタク、意ハ似セ易シ を感じさせる小津の演出作法を著者は解く。 同じく小林秀雄『私の人生観』に触れられている宮本武蔵の「観の目強く、見の目弱く見るべし」 を引いて小津の演出にその影響を見る、という達観だ。 観についての小林の引用続く。 「目の玉を動かさず、うらやかに見る」目があること、即ち「意は目につき、心は付かざるもの也」 常の目は見ようとする意が目を曇らさせる。だから見の目を弱くして観の目を強くするよう剣豪は教えた、と。 うらやか、とは晴れ晴れとのどかな様 東京物語の夫婦の会話シーンはまさにうらやかな観の目、であったのだ。 なるほど小津のワンシーンワンカットは西行の桜の空観にまで貫道するものであったのかは! 円覚寺の小津の墓碑銘は「観」が相応しかったと著者は考えたろうか。 登場者が多すぎる。どなたも魅力的た。 氏の文章スタイルも良い。 藤田嗣治のことを書いた本も機会があれば読みたいと思う。しかし先ずは 本居宣長→小林秀雄 これはこれで遥かな道のりだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.03.05 08:53:08
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