高木彬光『邪馬台国の秘密』
皆さんは邪馬台国をご存じだろうか。「ご存じ」というのは、ただ単に3世紀ごろに中国の魏と交渉があった国で、九州説と畿内説が論争していて、その国の女王は卑弥呼である、という一般的な知識のことではなく、実際どこに存在していたか「ご存じ」ですか、という意味である。 私は知っている。それは九州大分の宇佐一体に君臨した国である。こう断言できるのは、高木彬光『邪馬台国の秘密』(角川文庫)を読んだからだ。 この小説は、邪馬台国論争にかかる論文を、小説形式で書きあげた、書き切った作品である。従来の説とは、大きく二つの点で一線を画する。 一つ目は、魏の使節が上陸した場所である。一般的には(九州説も畿内説も)、秀吉の朝鮮討伐で有名な名護屋があった東松浦半島のどこかということになっているが、この小説の主人公神津恭介は自然地理学上の歴史的考察をふまえて、全く異なる地点を上陸の地としている。 もう一つは、道程についての魏志倭人伝の記載である「○餘里」を「誤差」ととらえる誤差論をもって考察している点である。 あまり詳しく書きすぎると興が覚めてしまうので、是非味読していただいて、私の今の実感を追体験していただきたいと思う。当時の「社会の心」に二重化して、難攻不落の城壁を突破する神津の推理のキレを、是非堪能していただきたいと思う。