本のタイトル・作者
ザリガニの鳴くところ [ ディーリア・オーエンズ ]
"Where the Crawdads Sing"
by Delia Owens
本の目次・あらすじ
1969年、ノース・カロライナ。
かつて、貧しい白人(トラッシュ)と、南部から逃れてきた黒人が住み着いた湿地で、一人の男の死体が発見される。
チェイス・アンドルーズ。
女好きで有名な彼は、火の見櫓から落ちたのか、それとも落とされたのか?
1952年、湿地。
父親の暴力に耐えかね、母は家を出ていった。
兄姉たちも次いで皆家を去り、残されたのは6つの末っ子カイアだけ。
そして彼女は、ひとりで湿地を生き抜くことになる。
引用
「わぁ」カイアの口から驚きの声が漏れた。「すごい」
「ほら、読めるじゃないか、カイア。文字が読めないころのきみはもういないよ」
「それだけじゃないの」カイアの声はささやきに近かった。「気づかなかった。言葉がこんなにたくさんのことを表せるなんて。ひとつの文に、こんなにいっぱい意味が詰まってるなんて」
テイトは微笑んだ。「この文章がいいんだ。それほど意味が込められていない言葉だってあるよ」
感想
2021年読書:142冊目
おすすめ度:★★★★
2021年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位。
過去と現在、章ごとに交錯しながら進む物語。
チェイスが死んだ場面から始まり、過去が語られる。
過去がどんどん現在に迫って来て、現在の謎解きも犯人を暴こうとする。
「結局、チェイスを殺したのは誰?カイアなの?それとも…?」というドキドキ感があった。
何と言うか、これはミステリのようでミステリというカテゴリに収まるものではない。
湿地の生物の物語であり、うち捨てられた子供が強く生きていく成長物語であり、愛と喪失の物語だ。
不思議なタイトル、「ザリガニの鳴くところ」は、生き物があるがままに生きられる場所、を指す。
父親の虐待を受け、母親に捨てられ、周囲から放置されて育ったカイア。
湿地の生き物に学び、湿地の生き物に生かされ、彼女はあるがままに生きる場所を求める。
アマンダ・ハミルトンについては最後まで気付かなかった!
やたらこの詩人出てくるな…というくらいの認識でほぼ読み飛ばしていた…。
アメリカでは有名な人なんかな~、巻末に参考文献出てくるんかな~と。
湿地の湿り気、霧の匂い、朝焼けのきらめき、夕焼けの胸を掻きむしられる美しさ。
かもめの羽音。
そんなものの中にいたように感じる作品だった。
著者は、ジョージア州出身の動物学者で、69歳で本作が初めての小説。
だからこそ、リアリティと知識量が圧倒的。
ずしんと腹に溜まる作品だったんだけど、一方で思った。
美しく、賢く、優しく、そんな主人公でなければ、物語は成立しないんだろうか。
運命の人に愛される少女。
カイアがカイアでなければ―――きっとほとんどの人間がそうなのだけど―――誰かに愛されることもなく、ただ孤独に生きていたのだろうか。
それはきっと、平凡で、文字にならない、救いのない物語。
私はたまに、その物語にならなかった物語について考える。
たくさんの平行世界のカイアのことを。
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