本のタイトル・作者
僕だって、大丈夫じゃない~それでも互いに生かし生かされる、僕とあなたの平凡な日々~ [ キム・シヨン ]
本の目次・あらすじ
プロローグ 僕とあなたのよみがえり記録
蘇生記録No.1 ディスタンス
蘇生記録No.2 認める
蘇生記録No.3 適応
蘇生記録No.4 バランス
蘇生記録No.5 応える
エピローグ だけど本当は、僕だって大丈夫じゃない
引用
「その秘訣はな……、自分が今やっている仕事こそが、もともとやりたかった仕事なんだと自らを洗脳するのさ。以上!」
実現不可能な青写真一枚を頭の中に描いて、それが叶わなくて不幸だと思って生きることがどんなに愚かなことなのか、誰しもわかっているはずだろう?
さらにその青写真を“自分がやりたいこと”と混同してしまうことも実によくある話だ。僕にだってそういうことがあるから。
だから仕事として選ぶなら、自分ができることは大前提で、ほんの少し努力したり、勉強を頑張れば手が届く範囲の中から、自分がより興味を引かれて楽しいものや、ほかの選択肢よりも少しでも自分を幸せにしてくれるものを選べばいい。それをうまく選び出せたなら、十分に素晴らしい人生が送れるような気がするよ、僕は。
「だとしたら、やりたい仕事って状況によって変わり続けますよね?」
「さすがだね。それこそが重要ポイントさ。時がたつにつれて、歳も取って状況も変わるのに、自分がやりたい仕事をその変化にリンクさせずに固定したままにすると、現実とかけ離れた、ただの空想になってしまうんだよ。それでも本当に重要なことは、やりたいと思う何かが変化する・しないにしても、いつだって“自分が今、本当に求めているのは何か”と自問し、悩み続ける習慣なんじゃないかと思うね」
感想
2021年284冊目
★★★
帯を矢部太郎さんが書いている。タイトルが気になって読んでみた。
韓国のエッセイは、タイトルが秀逸だ。
関係ないけど、本の真ん中(のど)に黄色い色がついていて、これが気になって集中できなかった…。
変わった装丁…。
この作品は、「第18 回ハンミ随筆文学賞」優秀賞受賞作品。
(ハンミ薬品という製薬会社が青年医師新聞と共同制定した文学賞)
韓国の医療事情も垣間見えて、たいへん興味深かった。
保険証がなくて、住民登録番号が代わりになっていること。
戸籍と実年齢の登録がずれているお年寄りがいること。
文字の読み書きが出来ないお年寄りがいること。
旧暦で誕生日を答える人もいる。
医者になってからずっと、ERで一刻一秒を争う応急処置に追われていた。
そんな「僕」キム・シヨン。
何の縁か、知り合いの医師の遺言で片田舎の町医者をすることに。
やってくるのは、風邪や糖尿病、鼻炎の――特にお年寄りの、患者たち。
大丈夫、死にやしないから。
ERの判断基準がすべての「僕」に、ある日患者は言う。
誰だって死ぬんじゃ、人間は。
もしかして自分は、何も見えていなかったのではないか?
医師の気付きと、様々なことが起こる診療所の淡々とした平凡な日々。
コロナ前なので、どこかほのぼのとしている。
雰囲気に、「
ねこマンガ 在宅医たんぽぽ先生物語 [ 永井康徳 ]」を思い出した。
人が死ぬことは、生きることの一部なのだ、と思う。
だからこそ死んでいく過程まで含めて、よく生きることになる。
それが突然に絶たれてしまうと、いたたまれない気持ちになる。
今の社会では、「生産性があること」が重要で、そこからドロップアウトすると価値がないように扱われる、気がする。
でも人間は永遠にそこに留まることが出来るわけではない。
人は生まれ、成長し、老い、死んでいく。
そのうちの一時だけをとらえ、社会のスタンダードだとし、圧倒的多数だとして前提に持ってくると、誰にとってもしんどい社会になるんじゃないか。
私たちは少しずつズレた直線だ。
歴史の年表みたいに、私たちはいくつもの線を引く。左から右へ。
ある人の「スタンダード」の期間は、ある人の「アンスタンダード」の期間に重なる。
つまり世の中のすべての人が「スタンダード」に収まることはないのだ。
けれどそれをまるで、ないもののように扱う。
その枠の外に「未熟」か「用済み」しかないのなら、私たちは何のために生きるんだろう。
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